トランプ大統領の相互関税政策が世界経済に与える影響は(Getty Images)
トランプ米大統領は2024年の大統領選で、民主党政権に失望した若者、黒人・ラテン系有権者を取り込む形で、支持層を拡大させた。大富豪の支持者もいる。とはいえ、コアとなる支持層は依然として、経済のグローバル化や産業の空洞化によって職を失ったと不満を訴える地方在住の白人労働者や、経済格差に強い不満を持つ低所得層、零細企業経営者などだ。
トランプ大統領はこうしたコアの支持層に報いようと考えているのだろうが、相互関税政策を導入さえすれば彼らが望む製造業回帰が簡単に起こり、単純な作業だが十分な所得が得られる仕事を取り戻せるかといえば、そうではないだろう。
企業家が新たな市場に参入し、工場を立ち上げるには大きなリスクが伴う。できる限り正確な市場予測を行い、その予測に基づき緻密な設備投資計画、資金調達計画、完成後の生産計画、利益計画などを立てなければならない。こうした一連の作業に時間がかかる上に、工場建設自体にも時間がかかる。
将来は不確かなものであり、ましてや、この政策が長期にわたり実施されるかどうかはトランプ大統領の政治生命がいつまで続くのか、次期大統領もこの政策を支持するのかといった点にかかっており、自信をもってそれを断言できる人は少ないだろう。
さらに、米国の場合、国際競争力のある賃金で、一定の質の労働者を必要なだけ調達することが難しい。ロボットや最先端設備などで補うとしても、現状ではそこまで技術は進んでいない。つまり、企業家に製造業回帰行動をとらせるには、越えなければならない大きな壁がいくつもあり、結果として長い時間がかかる。
ちなみに、中国の製造業GDP(名目、ドルベース、国連)が米国をはじめて超えたのは2010年だが、改革開放政策の決定から数えると32年、鄧小平氏による南巡講話から数えると18年、WTO加盟からだと9年かかっている。