相互関税政策の問題点が時間の経過とともに浮き彫りになる
中国製品を仕入れる側の米国企業からみると、顧客のニーズを満たす商品を中国系以外から調達することが難しい場合も多く、例えば家具のような製品であれば、原材料を仕入れる形にしてコストを抑える(米国側が組み立てを行う)とか、小物雑貨であれば取引ロットを増やすためにグループ購買を行うとか、関税を少しでも減らす方法が試行錯誤されている。
法律、ルールが制定されたからといって、実際にその通りに運営されるのかといえば、必ずしもそうとは言えない。中国から輸入される製品について、こまごまとしたものまで課税しようとするのであれば、それなりに人員を増やし、徴税体制を強化しなければならないが、政府機関職員が短期間で大量リストラされる中で、それができるのか。買い手、売り手、貿易手続き業者、末端の行政職員に高いモラルがあれば別だがそうでなければ、関税の捕捉率は低い水準に留まりかねない。法律でその取引が厳しく禁止されている麻薬が米国内で広く蔓延しているといった実情をみれば、なおさらだ。
実体経済は複雑だ。相互関税政策の効果が期待されたほどではないことや、経済、金融の各層で思わぬ副作用が生じるといった問題点が時間の経過とともに浮き彫りにされるだろう。
各国からできるだけ早く米国にとって有利な条件で合意を引き出し、高関税を取り下げることができれば相互関税政策は成功と言えるが、長引けば失敗に終わる。これはトランプ大統領が仕掛けたディール(取引)である以上、善意に基づいた正直で誠実な対応よりも相手の足元をしっかりと見据えたタフな交渉が求められる。日米関税協議が進行中だが交渉を急がず、米中貿易戦争の戦況を注意深く見守りながら、できる限り先送りする選択肢もあるのではないか。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。