3000万円で店舗を居抜きで購入
中国人の日本への移住をサポートする移民コンサルタント業の中国人女性が言う。
「以前は飲食業やネット販売業が人気でしたが、数年前から免税店や薬局、ドラッグストアの開業についての問い合わせが増えてきました。最近は中国語対応が可能な行政書士事務所が増えており参入の敷居はかなり下がってきています」
取材を進めると、3年ほど前から埼玉県川口市と東京都江戸川区の2店舗の薬局を経営しているという中国人女性に話を聞くことができた。
上海出身の林さん(仮名・50代)は、「中国語対応薬局」であることをSNSでアピールし、在日中国人や訪日中国人向けに医薬品の販売情報を発信している。DMで取材を申し込んだところ、店舗名や本名を伏せる条件で対面取材に応じた。
待ち合わせ場所である都内の喫茶店に現われた林さんは、Tシャツにジーパンというラフな格好だった。薬局経営者になった経緯についてこう淡々と語り始めた。
「20年ほど前から日本で中日間の観光業に従事していました。コロナ禍で厳しくなった時に新たな事業として薬局経営をしようと考えた。中国にいる友人から次々に『日本の風邪薬や解熱剤などの医薬品を送ってほしい』というメッセージが届いたことから、医薬品ビジネスの可能性を感じましたね」
自身で語った来歴からもわかるように、薬に関する専門知識を学んできたわけではない林さんだが、中国人向けのSNSを通じて埼玉県内で事業売却を計画していた薬局の情報を入手し、約3000万円で、居抜きで購入。薬剤師の雇用を含めた薬局開設許可の手続きを行ない、コロナ禍の最中に薬局の営業を始めたという。
「薬局経営に関するウィーチャットグループがあって、そこでは薬局の売買情報や開業許可の手続き方法、中国語対応してくれる行政書士の情報が手に入るんです。すでに薬局やドラッグストアを経営している中国人もチャットメンバーにいるので、相談しながら始めました。薬剤師もここで紹介してもらいました。
中国人に特に人気なのはパブロン、イブ(EVE)、ロキソニン、サロンパス、ツムラの漢方シリーズなどの市販薬で、主に中国国内に送っています。店舗では中国語対応もしているので、SNSの広告を見た在日中国人や中国人観光客の方もよく来店されます」
医薬品を国外へ販売すること自体に日本側の規制はないが、中国側では国家薬品監督管理局への許可申請、税関申請など煩雑な手続きが必要だ。林さんにこうした問題をどのようにクリアしているのか聞いたが、バツが悪そうに「有特殊渠道(特殊な流通経路がある)」とだけ語りその場を後にした。
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【プロフィール】
廣瀬大介(ひろせ・だいすけ)/1986年生まれ、東京都出身。フリーライター。明治大学を卒業後、中国の重慶大学に留学。メディア論を学び2012年に帰国。フリーランスとして週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人の実態などについて情報を発信している。
※週刊ポスト2025年9月12日号