*09:00JST ユーロ安誘導の仏政局【フィスコ・コラム】
大統領の独裁化で信認低下が深刻なドルよりも、足元はユーロの低迷が目立ちます。背景にあるのは、欧州連合(EU)を主導するフランスの政治的な弱体化。今後の政局次第で極右政権発足も非現実的とは言えず、ユーロ圏を巻き込んだ財政問題が懸念されます。
米雇用情勢の悪化が懸念され始めた8月1日以降、連邦準備制度理事会(FRB)の9月利下げ観測からドル売り圧力が強まりました。トランプ米大統領の政治圧力による信認低下、高関税政策の違憲判決もドル売りを加速させました。しかし、ユーロ・ドルは1.13ドル台から1.17ドル台に持ち直しながら、その後は軟調。9月に入って1.16ドル付近まで下げる場面もあり、戻りは限定的です。
直接の要因となったのは、フランス政局の行方。バイル首相が財政再建に向けて祝日廃止や福祉支出の凍結を柱とする緊縮策を打ち出したことで、与野党の対立は一気に激化しました。9月8日に迫る信任投票を前に左派勢力との連立体制は弱体化しており、極右・国民連合(RN)が早期総選挙を要求。マクロン大統領の求心力低下は明らかで、市場はフランスの政局流動化を織り込み始めています。
そうした混乱を受け、仏10年国債利回りは急騰し、リスクプレミアムの拡大が鮮明となりました。株式市場でもCAC40指数が1カ月ぶりの安値圏に落ち込み、金融株や消費関連株を中心に売られています。欧州中銀(ECB)の利下げ休止に思惑が広がっても、ユーロは全面安の展開となり、対ドルだけでなく対円、対ポンドでも下落。政治情勢を不安視したユーロ安は、目先も続く見通しです。
マクロン氏は2027年の任期まで議会を解散しない方針ですが、政権を維持できなくなれば総選挙に踏み切らざるを得ません。昨年の欧州議会選挙後の総選挙でRNは単独過半数獲得には至らなかったものの、反極右の「共和派戦線」を形成しなければ躍進を止められなかったのが現在のフランス政治の実情です。RN政権に現実味が増し、マクロン氏が総選挙に消極的なのも無理はないでしょう。
RN政権が発足した場合、何よりも財政問題が懸念されます。移民規制やEU予算拠出削減などでブリュッセルとの摩擦が強まる一方、RNは減税と歳出拡大を同時に主張。財源の裏付けが乏しければ、フランス国債の利回り上昇や格下げリスクを伴うでしょう。その結果、ユーロ圏全体に金融不安が高まり、市場では財政懸念による国債市場の動揺が予想されます。現在の国債市場はそれを先取りしたものです。
(吉池 威)
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