自己判断でなくチーム医療で委縮した脳を取り戻す
WHO(世界保健機関)による2023年版ガイドラインでは、慢性腰痛に対する治療で第一選択は「運動療法」と「認知行動療法」の組み合わせになっています。特に認知行動療法は、慢性腰痛は日常的に抱えている不安やストレスが痛みの背景にあるため有効とされています。ストレス耐性の弱さが慢性腰痛を引き起こしていると考えられているので、ストレスや不安の原因を取り除き、ストレスに対する耐性をつけることが痛みの抑制につながるからです。
例えば、「腰が痛いから家事ができない」と思いこんでいる人に、「腰が痛くても工夫すれば家事ができる」という考え方ができるように訓練するのが認知行動療法です。加えて、腰が痛くない方向に動かすといった腰痛体操を毎日継続することが有効です。こうしたセルフケアによって慢性腰痛が緩和され、委縮した脳も復活するという好循環が生まれます。
難治性の慢性腰痛患者の治療は、脳の状態を見極めて、整形外科、精神科、麻酔科、リハビリテーション科、看護師、理学療法士などの複数の異なった分野を組み合わせた「集学的治療」が欠かせません。患者が自己判断で腰痛の原因を探すのは逆効果で、専門のスタッフによるチーム医療を信頼して委ねることが肝要です。このことを私は20年以上前から訴え続けてきましたが、最近になってようやく理解してもらえるようになりました。
【右】仰向けになって軽く膝を曲げ、両手で頭を支えて肩が床から10cmくらい離れるところまでゆっくり上体を起こす。この姿勢を5秒間保ち、ゆっくりと元の姿勢に戻す。この運動を10回繰り返す【左】四つ這いの状態からへそを覗き込むように頭を下げ、骨盤を後傾させて背中を丸めていく。背中を丸めきったら、前方を見ながら頭を上げ、骨盤を前傾させて背中を反らせる。この運動を10回繰り返す
とはいえ、このメカニズムを理解できても、いざ自分が腰痛になるとついその原因を自己判断で探してしまうケースが多くあります。慢性腰痛で委縮した脳は治療で必ず元に戻ると信じ、適切な治療を続けることが重要なのです。
「古い脳は委縮しても治療で元に戻る」と語る紺野院長
【プロフィール】
紺野愼一(こんの・しんいち)/一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院院長。1984年自治医科大学医学部卒業後、2008年福島県立医科大学整形外科学講座主任教授兼附属病院整形外科部長に就任。2014年同大学附属病院病院長兼理事(医療・臨床教育担当)兼副学長を経て、2024年より現職。
■前編記事:MRIの画像診断でも原因が特定しにくい「慢性腰痛」、痛みの感じ方には脳が深く関係 運動器の障害か精神医学的な要因か、見分ける検査方法とは【専門医が解説】
取材・文/岩城レイ子