グローバル企業と鉄道の未来を探るセミナー
同様の動きは、取材会が行われた同じ日に、別の会場で見られた。国内外に拠点を持つグローバル企業が一同に集まり、鉄道の未来を語り合うという、貴重な場面があったのだ。
このイベントは、鉄道技術展の併催事業として開催されたセミナーだ。タイトルは「Top of the Railways (II)グローバル鉄道メーカー・サプライヤーの海外戦略と最新技術潮流―アジア鉄道市場への期待と展望―」だった。
セミナーの冒頭では、日本鉄道技術協会会長のオープニングセッションがあり、「海外から見た日本市場」「日本から見た海外市場」の概要が述べられた。
次に、以下のグローバル企業5社が、各社の取り組みを発表した(講演順)。
・日立:日本発。鉄道部門の本社機能は英国ロンドン
・クノールブレムゼ:ドイツ拠点。ブレーキを中心とする輸送用機器メーカー
・プラッサ&トイラー:オーストリア拠点。保守機械最大手
・ハスラーレイル:スイス拠点。鉄道向け電気機器のサプライヤー
・日本信号:日本拠点。国内大手の信号メーカー
グローバル企業が一同に集まったパネルディスカッション(筆者撮影)
最後のパネルディスカッションでは、「日本・アジア市場への期待」「今後の海外ビジネス展開」について、登壇者が議論した。
興味深かったのは、登壇者たちが日本の鉄道が持つ特殊性に対し、非常に慎重な姿勢を見せていた点だ。日本の鉄道は良くも悪くも特殊で、それが欧州企業の参入の障壁になっている。いっぽう欧州の鉄道は、世界の鉄道の潮流の中心にある。ただし、欧州のやり方をすべての国に押し付けると、イノベーションが起きにくくなることも経験的に知っている。だから、欧州とは異なる市場と協調することが、新しい鉄道の未来を創ることにつながる。そのような話を鉄道の最先端を走るグローバル企業から聴けたことは貴重だった。
欧州と日本で新しい鉄道の未来を協創する
欧州の鉄道は、日本の鉄道とくらべると、DXによる業務効率化において一歩リードしている。この主因は、欧州の鉄道が日本の鉄道よりも優れているというよりは、従業員の平均勤続年数が短く、人手不足や技術継承の課題に先に直面した点にある。
ただし、欧州の鉄道ならではの合理的なやり方をそのまま日本の鉄道に導入すると、うまくなじまないうえに、先述したようにイノベーションが起きにくくなる。このため、今後は、欧州と日本が互いに協力し合い、新しい鉄道の未来を協創することが求められるだろう。
【プロフィール】
川辺謙一(かわべ・けんいち)/交通技術ライター。1970年生まれ。東北大学工学部卒、東北大学大学院工学研究科修了。化学メーカーの工場・研究所勤務をへて独立。技術系出身の経歴と、絵や図を描く技能を生かし、高度化した技術を一般向けにわかりやすく翻訳・解説。著書多数。「川辺謙一ウェブサイト」も随時更新。
