筆者は過去に鉄道会社の指令室を取材したことがあり、社員たちが声を出して走り回る状況を目の当たりにしたことがある。また、社員たちが知識・経験・勘を総動員して対応している状況も見て、「機械が発達した現代においても、列車の運行管理は人の力に頼らざるを得ない」ということを痛感した。
ただ、今後は人手不足が深刻化するので、このような属人的な運行管理を続けることはむずかしい。そこで、AIを活用することが検討されるようになったのだ。
AIの活用で対応を最適化
「ReNom Railway」が実現する輸送計画の作成の効率化。属人的だった業務の多くがAIで自動化される。画像提供:グリッド
現在は、AIを活用した鉄道輸送計画の最適化が検討されている。列車が遅れることを想定して、最適な対応をするシナリオを自動的に生成する技術が開発されているのだ。
先述したグリッドは、そのような技術を開発しているベンチャー企業の一つだ。同社はAI技術を活用して社会インフラの最適化を目指している。ここにはAIの専門家だけでなく、鉄道を始めとする社会インフラの現場を知る専門家がいる。
同社のエンジニアリング第3部 部長・山本修平氏は、鉄道の現場勤務経験を持つ人物で、鉄道分野の輸送計画業務最適化AI「ReNom Railway(リノーム・レイルウェイ)」の開発に携わっている。また、AIが支援するしくみを構築するため、現場社員の記録のデジタルデータ化にも取り組んでいる。
山本氏は、2025年11月18日の同社説明会で、車両運用計画や構内作業計画(車両基地や駅の構内における作業計画)に加えて、乗務員運用計画の最適化も開発対象にすることを明らかにした。
「ReNom Railway」の現時点での開発対象。車両運用計画や構内作業計画に加えて、乗務員運用計画が追加された。画像提供:グリッド
乗務員の運用は、車両の運用よりも難易度が高い。先述したように乗務する時間や労働時間という制約があるゆえに、車両よりも融通がききにくい。そのやりくりが、AIによる最適化の対象になったのは、大きな第一歩だ。
「ReNom Railway」は、AIを活用した「列車ダイヤ」に基づいて最適な行路と交番を作成できる。画像提供:グリッド
「ReNom Railway」は、「列車ダイヤ」に基づいて最適な行路と交番を作成できる。つまり、「列車ダイヤ」を入力することで、車両と乗務員の最適なやりくりが表示されるのだ。行路と交番を最適化できれば、より少ない車両と乗務員で鉄道輸送を実現できる。
このような取り組みは、まだ始まったばかりだ。ただ、日本の鉄道業界にとってDXによる業務効率化は急務なので、この技術を求めている鉄道事業者は多いだろう。
【プロフィール】
川辺謙一(かわべ・けんいち)/交通技術ライター。1970年生まれ。東北大学工学部卒、東北大学大学院工学研究科修了。化学メーカーの工場・研究所勤務をへて独立。技術系出身の経歴と、絵や図を描く技能を生かし、高度化した技術を一般向けにわかりやすく翻訳・解説。著書多数。「川辺謙一ウェブサイト」も随時更新。


