列車ダイヤにしたがって電車を運転する運転士。筆者撮影
現在日本の鉄道では、AIを活用した輸送計画の最適化が検討されている。これは、デジタル技術を活用してコスト低減と省力化を実現し、業務効率化を図るためだ。そこで今回は、交通技術ライターの川辺謙一氏が株式会社グリッド(以下、グリッド)の協力を得て、このような検討の最前線に迫った。
列車の遅れでやりくりが変わる
まず、AIを活用する理由を示すため、鉄道における輸 送計画についてふれておこう。
輸送計画は、「列車ダイヤ」が示している。これは、1日の列車の動きを示す図表だ。われわれが駅などで見かける時刻表は、これを一般向けに翻訳したものだ。
「列車ダイヤ」の例。列車の動きを「スジ」と呼ばれる斜線で示す。筆者作図
「列車ダイヤ」は、車両や乗務員(運転士・車掌)のやりくり(運用)を想定して設計されている(無人運転の鉄道では乗務員の運用を考慮しない)。つまり、限りある車両や乗務員をいかに運用して輸送を実現するかが考慮されているのだ。
車両や乗務員には、行路と交番がある。行路は移動経路で、交番は担当する行路を定めたシフトだ。乗務員の場合は、交番に出社・退社時刻や休みなどが記されている。
車両の行路の例。L駅を出発した車両が、F駅やP駅を経由してL駅に戻ってくるルートと時間が記されている。画像提供:グリッド
列車がなんらかの理由で大幅に遅れると、列車を「列車ダイヤ」通りに動かせなくなる。となると、当然車両や乗務員も本来の行路や交番の通りに動かせなくなる。
そこで、運行管理を担う指令室では、運転整理を行って列車の動きを「列車ダイヤ」通りに戻し、車両や乗務員の行路や交番を変更する。
ただし、これらの変更は容易ではない。車両や乗務員にはそれぞれ制約があるからだ。車両は一定の周期で定期点検を受ける必要があるので、長期間走り続けることができない。いっぽう乗務員は、列車に乗務時間や労働時間の上限を守らなくてはならない。
このため、列車が大きく遅れると、指令室が騒然となる。その影響で運休が発生すれば、輸送力が奪われるだけでなく、車両や乗務員の運用が変わるからだ。


