楽天モバイル1000万回線突破に、三木谷浩史会長は何を思うか(=左。右はお笑い芸人の藤森慎吾さん)
「今度こそ楽天モバイルは終わった」――巨額の設備投資による大赤字で、長年悲観論が取り沙汰されてきた楽天。そうしたなかでも同社は基地局を建て続け、技術開発を進めるなどして2025年12月25日には契約数1000万回線に到達した。巨額投資は無謀な賭けだったのか、それとも計算された経営戦略だったのか。『最後の海賊――楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』の著者でジャーナリストの大西康之氏が、三木谷氏の肉声をレポートする。
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クリスマスの12月25日。東京・東新宿の記者会見場で、楽天グループ会長兼社長、楽天モバイル会長の三木谷浩史氏がお笑いタレントの藤森慎吾氏と、備え付けられたモニターにじっと見入っている。
表示された数字は「9999931」。
日々、獲得される契約件数がリアルタイムで集計される。データを更新して1000万件を超える瞬間を集まった記者たちに見せよう、という趣向である。
「1000万件超えてなかったらどうしよう」(三木谷氏)
「そんな怖いこと、言わないでください」(藤森氏)
即興のやり取りで笑いを誘った後、司会者の声がかかる。
「それでは、更新してください!」
「10000054」
「おお!」
会場がどよめく。
「おめでとー、ございますー!」
藤森氏が絶叫すると、三木谷氏の顔がほころんだ。
2025年12月25日に契約数1000万回線に到達
「勝算はあった」
楽天が自前の通信回線を使った携帯電話事業に参入したのが2020年4月。1000万件の大台に乗せるまでの5年8ヶ月は茨の道だった。
ネットで楽天モバイル叩きの先頭に立ったのがホリエモンこと堀江貴文氏だ。
「楽天モバイル完全終了」「悲報!楽天経済圏壊滅のお知らせ」──どぎついタイトルの動画を連日、これでもかと投稿し、それぞれが何十万回も再生された。楽天モバイルを叩いてYouTubeの再生回数を稼ぐことが堀江氏のビジネス戦略だった面もあるが、引きずられるように通信専門家やネットのインフルエンサーたちも、「今更、ドコモ、au、ソフトバンクの寡占市場に割って入るのは無理」「巨額の設備投資で楽天グループ本体の経営も危うくなる」と悲観論を並べた。
「本当に危機はあったのか」という筆者の問いに、三木谷氏はこう答えた。
「日本全国に10万局からの基地局を建ててゼロからネットワークを構築するわけだから、とてつもなく大きな投資であったのは事実。
しかし楽天モバイルが作ったのは、世界初の完全仮想化(専用設備・機器などのハードウェアを利用せずに、ソフトウェアでネットワークを制御するしくみのこと)やORAN(インフラ機器を特定のメーカーに依存せず、様々なメーカーを組み合わせて最も安く効率的な携帯ネットワークを構築する手法)を取り入れた最先端のネットワークで、既存の携帯ネットワークに比べれば設備投資や運用コストを4割安くした。楽天史上最大の投資だが、勝算はあった」(三木谷氏)
当初はKDDIの通信網を有償で借りる「ローミング」にかなりの部分を依存する戦略だったが、巨額なローミング費用が楽天モバイルの収支を圧迫していたため、三木谷氏は途中から大半を自前のネットワークにする決断を下す。「完全仮想化」や「ORAN」がうまく機能して技術力に自信を深めたからでもある。

