足軽身分の兄弟は「戦場での共倒れ」にどう備えたか
危機管理の点から注目したいのは、秀長が故郷の中村を離れた後の男手の確保と、秀吉・秀長が同時に戦死しないようにする工夫である。男手が一人もなくしては一家が飢え死にしてしまう。兄弟のどちらも一騎当千とはほど遠い存在で、乱戦の場ではいつ戦死してもおかしくはない。最悪の事態に備え、何か考えがあったのだろうか。
兄弟が村を離れた後の男手の確保に関し、劇中では母の再婚により解消される展開になりそうである。秀吉・秀長兄弟の実父については弥右衛門説と築阿弥説に加え、両者を同一人物とする説、さらには弥右衛門を実父、築阿弥を継父とする説、果ては秀吉と秀長を異父兄弟とする説などまである。母の再婚により男手確保の問題が解消され、新たに弟か妹ができる可能性もゼロではなくなった。このような背景があるからこそ、秀長と秀吉の早期合流という筋書きが可能となったのだろう。
残るは兄弟が同時に戦死するのを避ける工夫だが、劇中の兄弟はその危機をどう乗り越えるのか。ドラマ第1回で描かれたように、秀長まで正式に信長の家臣となれば、兄弟が生き残るために彼らの独断でどちらか一人が後方待機というわけにはいかない。それならば戦場では常に離れず助け合い、仮にどちらかが戦死したら、残る一人は兄弟の死体の回収にも戦功を挙げることにも拘泥せず、とにかく生き残ることを最優先させる。兄弟間でそのような合意がなされる展開もありそうである。
実際、戦場で落命する危険の高い足軽の身分の兄弟にとって、家系の存続は大した問題ではなかったろう。故郷に残した母の悲しみを少しでも軽減させるためにも、兄弟がそう言い交わしたと想像すれば、ドラマの今後の味わいがより深まるはずだ。
【プロフィール】
島崎晋(しまざき・すすむ)/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。近著に『呪術の世界史』(ワニブックス)などがある。日本史上の巨大プロジェクトの舞台裏を危機管理という視点で迫った最新刊『危機管理の日本史』(小学館新書)が好評発売中。