*13:37JST アンジェス Research Memo(7):OMNIプラットフォームはゲノム編集技術の中でも安全性の高さに強み
■アンジェス<4563>のEmendoBioの開発状況
1. ゲノム編集技術とOMNIプラットフォームの特徴
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、ねらった遺伝子を改変する技術を指す。2012年に従来法とは異なる機序で簡単に標的とするDNA配列を切断可能なCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いて新薬の開発を行う動きが活発化し、2023年には英国と米国で同技術を用いた治療薬が初めて承認されている※。
※ 米国Vertex Pharmaceuticals Inc.<VRTX>とスイスのCRISPR Therapeutics<CRSP>が共同開発した鎌状赤血球貧血症を適応症とした治療薬が承認された。患者から採取した造血幹細胞をゲノム編集技術で遺伝子改変し、それを注射投与で体内に戻すことで治療効果を得る治療法である。鎌状赤血球貧血症とは、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素の運搬に使われるタンパク質)が遺伝子異常によって変形することで赤血球が鎌状になって壊れやすくなり、貧血の症状を起こす疾患。症状が悪化した場合、腎不全や心不全を引き起こすケースもある。
CRISPR/Cas9はその技術を用いた治療薬が初承認を得たことで一定の安全性が確認されたが、依然として非特異的にゲノムを切断してしまうオフターゲット効果の懸念は残っている。これに対して、EmendoBioが独自開発したOMNIプラットフォームは、オフターゲットを最小限にとどめつつ高効率なゲノム編集を行うヌクレアーゼを探索・最適化する仕組みで、従来にない新しいヌクレアーゼを作り出す技術である。自社開発したヌクレアーゼのうち250超について特許を申請している。ゲノム編集技術による医薬品の開発を進める場合には、効率性だけでなく安全性も強く求められるため、OMNIプラットフォームは強みになると弊社では評価している。EmendoBioの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円、このうち約1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になり得ると見ており、成長ポテンシャルは大きい。
OMNI技術供与先の開発パイプラインで2026年の臨床試験入りを見込む
2. 事業戦略
EmendoBioはイスラエルの紛争長期化もあって2024年に事業構造改革を実施し、現在はゲノム編集技術に関する研究者とITエンジニア合計で20名程度の体制である。事業戦略としては財務状況を踏まえ、これまで開発してきた250を超えるOMNIヌクレアーゼやOMNIプラットフォームのライセンス活動に集中している。
ライセンス契約に関しては、2024年3月にがん免疫療法の一種であるTCR-T細胞療法※1の開発で業界をリードするスウェーデンのAnocca AB※2と、OMNI-A4ヌクレアーゼの使用権についての非独占的ライセンス契約を締結した。AnoccaはOMNI-A4ヌクレアーゼを用いて、難治性固形がんにおけるKRASタンパク質の変異を標的とした開発を進めている。また、2025年9月には同ライセンス契約の適用範囲を拡大することに合意した。AnoccaではOMNI技術を高く評価しており、今後の開発パイプラインにOMNIヌクレアーゼを積極的に活用していくものと見られる。2026年内にOMNI-A4を用いた開発パイプラインの臨床試験開始が見込まれており、Anoccaからマイルストーン収入が得られる見通しだ。当初の契約では契約一時金も含めてマイルストーンの総額が最大100百万米ドルであったが、ライセンス契約の適用範囲を拡大したことでさらに膨らむ可能性がある。
※1 TCR-T細胞療法とは、患者のリンパ球を採取し、がん抗原特異的なT細胞受容体(T-Cell Receptor)をT細胞に導入して再び患者に輸注する遺伝子改変T細胞療法のことで、難治性固形がんでの開発が進められている。
※2 2014年に設立されたバイオベンチャーで、科学者・エンジニア・ソフトウェア開発者を中心に従業員数は100名を超える。特定の抗原を認識するTCRを発現するT細胞を選別、培養する技術を保有しており、複数のがん標的に対するTCR-T細胞療法のライブラリーを持ち、40を超える製品候補を抱えている。
そのほかの企業との契約交渉については、現在、スイスの製薬企業1社がOMNIプラットフォームの技術評価試験を進めており、高い評価が得られれば2026年内にもライセンス契約に発展する可能性がある。また、2025年1月に米国スタンフォード大学と、ゲノム編集技術を用いた新規がん治療法の開発に関する共同研究契約を締結した。遺伝性の難治性乳がん治療について、スタンフォード大学が持つ細胞への薬剤送達技術と、EmendoBioのOMNIヌクレアーゼを使ってがん細胞特異的にゲノム編集を行い、がん細胞の治療抵抗性を低下させることにより、がん細胞のみを死滅させる新たな治療法の開発を目指している(研究期間約2年、研究費約130万米ドルを予定)。共同研究終了時に研究成果を論文として発表する予定だ。OMNIヌクレアーゼの開発については、今後コンピュータサイエンスの技術力が必要となるが、スタンフォード大学には同領域で優秀なエンジニアが多く在籍しており、将来的にはこれらの人材を採用して米国に研究開発拠点を移すことも検討している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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