大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

お粗末な「コロナ敗戦」を招いた日本政府の“アナログ脳”

日本政府の“アナログ脳”が引き起こした問題とは(イラスト/井川泰年)

日本政府の“アナログ脳”が引き起こした問題とは(イラスト/井川泰年)

 ワクチン接種をはじめとする新型コロナウイルス対策で、日本政府は後手後手に回った印象がある。なぜ菅政権のコロナ対策は迷走したのか。その背景について、経営コンサルタントの大前研一氏が分析する。

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 菅義偉政権の1年間は、新型コロナウイルス対策が迷走した1年間だった。

 そもそも菅内閣の人事は意味不明であり、菅首相は組織人事を全くわかっていなかったと思う。たとえば、ワクチン接種を誰の責任で行なうべきかといえば、田村憲久厚生労働相だ。ところが菅首相は、河野太郎行政改革担当相にワクチン担当相を兼務させた。その結果、河野担当相はロジスティクスの基本を知らなかったため、ワクチン供給が大幅に遅れる事態となった。

 また、西村康稔経済再生担当相が、なぜ新型コロナ感染症対策担当相を兼務し、分科会との調整役や各自治体との交渉役になって政府のスポークスマンのようになっているのか、さっぱりわからない。本来、分科会との調整役は田村厚労相、自治体との交渉役は武田良太総務相がやるべきだろう。

 つまり、菅首相は既存の組織を生かしていなかったわけで、河野ワクチン担当相や西村コロナ対策担当相のような特殊な人事を発令する場合は、その理由と目的を明確に説明すべきだが、菅首相は独断専行で何も説明しなかった。

 菅首相は杉田和博官房副長官や和泉洋人首相補佐官といった安倍晋三政権時代からの側近・子飼い官僚を重用していたようだが、その“官邸チーム”がコロナ対策では全く機能しなかったのである。

 もし私が首相だったら、ブレーンとして抜本的で効果的なコロナ対策を分析・立案できる若手の有能なエキスパートを集めた特別チームを作り、そこで決定したことを所管大臣に実行させる。つまり、首相の「政策参謀」を置き、縦割り縄のれんの省庁を横にコーディネートするのである。

 たとえば、ワクチン接種は医療従事者専門サイト「m3.com」を運営しているエムスリーに頼めばよい。

「m3.com」には国内の医師の9割以上にあたる30万人余りが登録しており、8月末までに自治体の個別接種や大規模接種向けに約8000人の医師を紹介した。職域接種向けについても2022年3月末までに約2000社に対し1万人の紹介を見込んでいるという。エムスリーに任せれば、速やかに国民全員のワクチン接種を済ませることができるだろう。

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