*09:00JST ポンドに追い風と向かい風【フィスコ・コラム】
英国経済の行き詰まりで低迷が続いたポンドに、追い風が吹いています。対米貿易の恩恵は限定的ながら、日の出の勢いのインドとの貿易は先行きも拡大の方向。ただ、直近の地方選ではポピュリスト政党の躍進が目立ち、政治情勢がポンドのリスク要因となりそうです。
ポンド・ドル相場は今年1月に1.2099ドルまで下げた後は上昇に転じ、3年超ぶりの高値となる1.3443ドルまで切り返しました。米トランプ政権の信認低下によるドル売りがポンドの押し上げ要因ですが、ドル売り一服後もポンドは高値圏をおおむね維持。足元は対米貿易交渉が妥結し、貿易戦争を回避したことが好感されています。さらにインドとの関係強化は当面、ポンド買い要因になるでしょう。
3年越しのイギリスとインドの交渉は、2025年5月にようやく大筋合意に達しました。今回の自由貿易協定(FTA)は、英国にとってEU離脱後で最大規模の通商合意とされ、ウイスキーや自動車など主要輸出品への関税が段階的に撤廃されます。インド側も繊維や農産品の輸出促進を狙い、両国とも相互の貿易拡大による経済成長を期待。実際、2040年までに英国のGDPを年間48億ポンド押し上げると試算されています。
対インド貿易の拡大は、イギリスの製造業や中堅輸出企業が大きな恩恵を受けることになります。EU域内に依存していた販売先がインドにも広がることで輸出先は多様化すれば、ポンド相場にも中長期的な支援材料となりそうです。インド側の関税撤廃によって英国製品の競争力が高まり貿易黒字拡大が意識されれば、投資マネーの呼び水となる可能性があります。
一方、国内政治がポンドの長期的な不安要因になりつつあります。スターマー政権にとって最初の審判となった下院補選・地方選挙では、ナイジェル・ファラージ氏が率いる「リフォームUK」が複数の選挙区で支持を拡大し、従来の保守・労働の二大政党制を揺るがすほどの勢いを見せつけました。移民規制や国民保険制度改革を訴える強硬な政策が一部有権者に支持されたようです。
こうしたポピュリズムの台頭は、英国政治の先行き不透明感を強める要因となります。 昨年の総選挙で大敗を喫した保守党は党首に黒人女性が初めて選出され話題になったものの、党勢回復はほど遠い状況。リフォームUKの支持拡大が続くなら政治情勢は混とんとし、財政運営や金融政策の方向性が見えづらくなります。貿易環境改善の効果を政治リスクが帳消しにするなら、ポンドの本格回復には時間を要するとみられます。
(吉池 威)
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