*17:31JST 大豊建 Research Memo(1):事業基盤の強化により中長期的な企業価値向上へ、積極的な株主還元方針にも注目
■要約
大豊建設<1822>は、土木及び建築を中核とする総合建設業者であり、特に高い技術力を背景に、都市インフラ整備や地中構造物の分野に強みを持つ中堅ゼネコンである。トンネル工事や地下空間の開発において高い競争力を誇っており、なかでも、「シールド工法」をはじめとする地下トンネル工事に関しては、都市部における限られた空間での施工技術、安全対策、環境負荷低減への配慮といった観点での対応力が特に評価が高い。また、土木に強みを持ちながらも、建築分野でも一定の存在感を示しており、とりわけ物流施設や再開発案件においては、顧客ニーズに応じた柔軟な設計・施工体制を構築している点が特徴である。大手ゼネコンとは異なり、選択と集中により得意分野に特化した競争戦略を採用することで、堅実な収益基盤を築いている。近年では、環境配慮型の施工技術やICTを活用した施工管理の高度化にも注力しており、安全性と効率性を両立する取り組みが評価されている。
1. 2025年3月期の業績概要
2025年3月期の業績は、売上高が前期比12.1%減の143,394百万円、営業利益が同11.9倍の5,533百万円、経常利益が同313.2%増の5,204百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が3,691百万円(前期は2,072百万円の損失)と、減収ながら営業増益となり、最終損益は黒字回復した。期初計画は売上高が145,000百万円、営業利益5,900百万円であったが、売上高・利益ともに計画には届かなかった。売上面は、土木事業におけるシールド工事など大型工事の進捗が計画より遅延したこと及び、建築事業においても一部の大型プロジェクトの進捗の期ずれが発生したことが主な要因である。利益面は、一部工事の進捗遅延による減収効果に加え、国内物流施設の施工不良に伴う是正工事による建設コストの増加、為替差損の発生などが利益を圧迫した。他方で、営業利益の前期比は11.9倍と飛躍的に改善した。その結果、営業利益率は前期比3.6ポイント改善しており、採算意識の向上やプロジェクト管理体制の強化が寄与したと見られる。
2. 2026年3月期業績見通し
2026年3月期通期の連結業績は、売上高が前期比2.4%減の140,000百万円、営業利益が同6.0%減の5,200百万円、経常利益が同23.0%増の6,400百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同8.4%増の4,000百万円と、減収ながら経常利益及び当期純利益は増益を確保する見通しである。利益面について事業セグメントごとに見ると、建築事業については前期から推進してきた選別受注の成果により、利益率の高い案件への入れ替えが進展している。売上総利益率は、採算性の向上により前期比1.7ポイントの改善が期待される。他方で、土木事業については繰越案件の中で大きな割合を占める大型JV(Joint Venture:共同企業体)におけるサブ工事の利益率改善が課題となっており、全体の収益性をやや圧迫する要因になると見込まれる。また、コスト面では人件費が継続的な賃上げの影響により増加基調にあることなどから、全社ベースの営業利益率は同0.2ポイントの低下が見込まれる。他方で、経常利益については前期を1,196百万円上回る計画となっている。これは主に、同社が出資している特定目的会社(SPC)を通じて手掛けている物流施設の開発事業において、同施設の売却に伴い配当収入が発生し、営業外収益を押し上げる見通しによる。
3. 中長期の成長戦略
同社は2023年5月19日に2028年3月期までの中期経営計画を公表したが、計画開始してから2年間で建設資材及び人件費の急騰、品質確保にかかる追加費用の発生などにより、採算が大きく悪化し、業績目標が未達となった。こうした状況を受け、基本方針自体は維持しつつも、外部環境の変化に対応できるように内容の見直しが行われ、2025年5月9日に中期経営計画のアジャスト版を新たに公表した。中期経営計画の定量目標は、2028年3月期に売上高1,600億円、営業利益67億円、営業利益率4.2%、当期純利益46億円、ROE7%程度を掲げており、これらの実現に向けた重点施策が示されている。直近3年間の重点課題は内部統制の強化である。具体的には、物価変動を契約に反映できるように物価スライド条項(工事の契約締結後に行われた賃金や物価の変動が一定程度を超えた場合に、請負代金額の変更を請求できるという条項)を標準化すること、受注の選定やリスク管理を含めたマネジメント体制の強化、モニタリング機能を充実させた施工管理体制の再構築などが挙げられる。
なお、同社は株主還元の強化に向けて配当方針を転換した。2025年3月期以降は従来の株主優待を継続しつつ、配当性向を70%以上に引き上げるとともに、業績及び財務状況に応じて柔軟かつ機動的な還元策の実施を検討する姿勢を示している。
■Key Points
・土木事業では高度な独自施工技術を有しており、他社との差別化を実現
・2026年3月期は営業減益も、経常・最終利益は増益の計画、事業構造改革を進め収益基盤の整備へ
・中期経営計画のアジャスト版を公表、外部環境の変化を踏まえて事業基盤の強化を図る
(執筆:フィスコアナリスト 吉林拓馬)
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