*11:08JST 九電工:設備工事の安定成長企業、新中計では積極的な成長投資や株主還元に意欲
九電工<1959>は1944年に九州電力工務部門を分離して設立。配電線工事を起点に電気・空調・衛生・情報通信へ裾野を拡大し、現在は全国で業域を拡大している。九州電力向け取引割合は約11%に低下し、民需や首都圏大型案件などでポートフォリオを多様化している。2025年10月から「クラフティア」に社名変更するとしており、技術者集団としてのブランド再定義を行う。
同社事業は、電気設備工事、空調衛生工事、配電線工事、太陽光の四本柱。設計・調達・施工・保守を一括受注するEPC体制により、工事完了後も点検契約や省エネ改修でストック収益を積み上げる。配電線工事については、九州電力が主要顧客であり安定した収益源となっている。電気設備工事および空調衛生工事については、同社の収益の中心となっている。九州地域においては、電気設備工事、空調衛生工事の双方においてトップシェアを占めている。足元、建設工事関連業種においては人手不足が深刻化しているが、顧客にとっても同社にワンストップで発注できることが強みとなっている。加えて、同社は九州地域のみならず関西や関東地域でも高い技術力を背景に大型施設案件の受注を積み上げている。その結果、近年、九州電力への収益依存度は大きく低下しているが、ブランド力のみならず施工レベルにおいても同社の競争優位性を示していると言えよう。太陽光については、過去に太陽光発電の建設ラッシュが相次いだが、同社は先駆けて同分野の工事を受注することで近年の同社業績を底上げしている。
2026年3月期の業績見通しについて、売上高は同3.4%増の490,000百万円、営業利益は同7.5%増の44,500百万円、当期純利益は同10.8%増の32,000百万円といずれも過去最高となる予想。国内の建設業界においては、民間の都市再開発や半導体関連施設、物流施設など、建設投資は底堅く推移しており、各事業においてポジティブトレンドが継続することが見込まれる。
中期経営計画については「VISION2029」を発表している。定量目標としては、経常利益600億円、ROIC10%以上、投資総額2,000億円(5年間)を掲げている。特筆すべきは成長投資2,000億円であり、成長投資M&A800億円、ストックビジネス投資800億円、DX・設備投資400億円を内訳としている。2026年3月期の経常収益見通しは475億円であるが、中計最終年度の目標値600億円との乖離幅を踏まえると、相応の成長投資やストックビジネス投資が期待されよう。
同社は近年右肩上がりの増収増益を継続してきたことから、資本は積み上がっており、手元現預金も潤沢にある。M&Aについては同社事業に関連性のある分野が、ストックビジネスについては再エネ関連施設・設備や不動産などが想定される。インカム的に着実に収益を積み上げられる成長投資は、中長期的に同社収益に寄与するだろう。
一方、マーケットで懸念されていた宇久島太陽光発電プロジェクトについては、進展が見える。従前は建設局との協議を関係団体と進めていたが、長期化・遅延が発生したことを受け、行政機関から許認可を取得する方針に切り替えている。標準的な行政プロセスに要する時間や手続きの進捗を考慮すると、今後、数ヶ月以内には結論が出る可能性がある。許認可を取得できれば、業績上のアップサイド要因になりうる。
株主還元については、連結配当性向40%を目安として、安定配当を行うことを目的に、維持または増配を行う「累進配当」を実施する方針である。2026年3月期の配当は1株当たり180円(前期比40円増)で、配当性向は39.8%としている。また、自己株式取得については、成長への投資と財務バランスを見ながら、最適資本構成に向けて機動的に実施するとしており、これは株価のサポート要因になろう。
マクロトレンドはポジティブであり、国内の建設投資は底堅く推移していることを踏まえると、当面は安定した成長が期待できる。懸案であった宇久島太陽光発電プロジェクトについても、今後、不透明感が払しょくされることで見直し買いが期待できる。予想配当利回り3.38%に加え、今後の成長投資、自社株買いなどアップサイド要素も多く、中長期目線で投資を検討したい銘柄と考える。
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