*11:13JST SMN:ソニーグループ傘下のマーケティングテクノロジー会社、前期黒字転換からの利益成長フェーズへ
SMN<6185>はソニーグループのマーケティングテクノロジー会社として確かな技術力と豊かな発想力で、最先端の広告配信サービスを提供している。マーケティングテクノロジー事業の単一セグメントのもと、3つのサービス領域を保有。2025年3月期の売上構成比は、アドテクノロジー83.9%、マーケティングソリューション4.2%、デジタルソリューション11.0%、その他0.9%。主力のアドテクノロジー領域では、自社開発のDSP「Logicad」に加え、企業の広告運用内製化を支援するデジタルハウスエージェンシーを展開している。その他にも、厳選媒体に限定したアフィリエイト「SCAN」や、Web制作・TVCMメタデータ提供などのサービスも提供しており、単なる広告配信にとどまらず、AI・ビッグデータ技術を活用した戦略的なマーケティング支援を通じて、クライアント企業の課題解決に深く関与するビジネスモデルを構築している点が大きな特徴である。
競合他社と比較した際、同社の優位性は、ソニーグループをバックグラウンドに持つことによる特許を含む先端技術や開発環境、人材力となる。Web広告表示をめぐる高速のリアルタイム入札取引を中心に、Webマーケティング領域において高い競争優位性を発揮している。源泉であるビッグデータやAI技術に加え、戦略的パートナーシップを活用することで、独自性ある模倣困難なサービスを創出。自社開発のDSP「Logicad」が持つ高精度なターゲティング技術で安定かつ最適な広告配信が可能となっている。人材面では、情報・通信やAIなどの専門知識を有する人材が高度な技術の実装や研究開発をけん引。技術職26名のうち博士12%・修士54%となっている。これにより、ソニーグループならではの共同開発や特許活用により、最先端技術の開発や社会実装のリードが可能となる。
2025年3月期の売上高は11,640百万円(前期比24.7%増)、営業利益239百万円(同2.3倍)と大幅増収増益で着地した。中でも主力のアドテクノロジー事業が業績を大きく牽引した。デジタルハウスエージェンシーの立ち上がりが想定以上に好調だったこと、広告主向けの営業力強化とプロダクト強化策が功を奏した。営業・経常利益の黒字幅拡大に加え、ルビー・グループ株式譲渡の影響もあり、当期純利益は黒字転換した。2020年3月期以降続いていた最終赤字から脱し、経営再建が一つの区切りを迎えた点は注目に値する。
7月31日には2026年3月期第1四半期決算を発表、売上高は2,729百万円(前年同期比5.5%減)、営業損益は70百万円の黒字に転換した。営業利益は5事業年度ぶり、当期純利益は6事業年度ぶりに黒字化を達成、通期業績予想達成に向け順調に進捗している。主力のアドテクノロジー事業は、継続的に取り組んでいる営業力強化、商品力強化が功を奏して大幅増収となった(一時的大型案件の影響を除いた実質的な売上高は前年比6.2%増)。また、ソニーグループの独自AIとSMNが得意とするマーケティング分野の知見やノウハウを活用したコミュニケーション戦略支援サービス「SENZAI」の提供を2025年5月より開始した。同サービスでは、消費者ニーズの把握から感性ペルソナ分析、広告・クリエイティブを含むコミュニケーションプランの策定・実行までを大幅なコスト削減を実現し、ワンストップで支援していく。
2026年3月期の売上高は12,000百万円(前期比3.1%増)、営業利益は400百万円程度までの増加(同67.3%の増)を見込む。増収率は前期から一転して一桁台の穏やかな成長見通しとなっているが、これは一時的大型スポット案件とルビー・グループ売却の影響を織り込んだ内容となっている。計画通りに推移すれば増収増益基調を確かなものにし、中期成長への足場固めとなる見通しである。2025年3月期で「3つの構造改革」が大きく進捗し、とりわけ「事業ポートフォリオの再定義」に一定の目処がたった。今期2026年3月期より中長期戦略推進スピードを一層加速し、改革フェーズから成長フェーズへ本格的にシフトしていくようだ。
同社が属するインターネット広告市場は堅調な成長を続けている。電通の調査「2024年日本の広告費」によれば、インターネット広告費は3兆6,517億円(前年比9.6%増)に達し、特にSNS上の縦型動画広告やコネクテッドTVにおける動画広告需要の高まりが市場拡大をけん引した。デジタル広告は依然として広告業界全体の成長エンジンとなっている。一方で、プライバシー規制の強化などの環境変化、新興プレイヤーの台頭による競争激化などにより、広告テクノロジー企業は俊敏な戦略対応と技術革新が求められている。こうした外部環境の変化を踏まえ、全体としては中長期的に成長が期待される一方、各社の対応力の差が明暗を分ける状況となっている。
今後の見通しとして同社は、中長期的に「総合デジタルマーケティングテクノロジー企業」への進化を目指し、主力のアドテクノロジー事業の再成長と、新規事業の創出を両輪とした戦略を推進している。定量的な指標では、ROE10%以上を掲げている。アドテクノロジー領域では、技術開発力・商品ラインナップの拡充・営業体制の強化を優先施策として取り組んでいる。獲得広告分野の競争力をさらに高めるとともに、今後成長が見込まれるブランド広告分野への展開を加速し、アドテクノロジー全体の成長を図る。また、新規事業領域では、デジタルハウスエージェンシーに続く「第三の柱」の育成を目指し、複数のプロジェクトを積極的に検討・推進中である。ソニーグループが有する経営資源や技術基盤と、同社独自のAI・ビッグデータ解析等のケイパビリティを組み合わせ、差別化された新サービスの創出を目指しており、事業領域の多角化と企業価値の向上を視野に入れている。
同社はソニーグループ<6758>の上場子会社でありソニーグループと連携できる一方で、外部にもサービスを展開できる。また、ソニーグループの有する「ブランド・技術・人材・リード」などの経営資源へのアクセスが可能となる中、グループ自体が同社のサービス提供先になりえる。さらに、同社は高収益体質への転換も重要な経営課題と位置づけ、コスト構造の見直しや各事業の収益性改善に取り組んでおり、今後も収益性向上が期待される。人的資本戦略にも注力しており、特に高度なITスキルを有する技術人材や次世代の中核人材の採用・育成を強化。多様な採用チャネルの活用や教育制度の整備を通じて、組織としての持続的な成長と競争力強化を図っている。同社は拡大するデジタル広告市場において中長期的な成長軌道に乗ることが期待される。
株主還元について、同社は成長投資と財務基盤の強化を優先しており、配当は実施していないが、2025年3月期に最終黒字へ転換したことで将来的な配当の可能性も期待される。しかし、現時点では明確な配当方針は公表されていないため、当面は内部留保による事業成長が優先される見込みである。前期黒字転換からの成長フェーズ入りした、最先端の広告配信サービスを提供する同社の今後の動向に注目しておきたい。
<FA>