*10:26JST アジア最大級イベント「ビリビリワールド」が席巻する中国発ゲーム(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。
今年7月10日から上海でアジア最大級のイベント「ビリビリワールド」が開幕した。これは決して90年代から2000年代初期にかけて開催された日本動漫(動画=アニメ、漫画)展の中国版ではなく、産業構造そのものが大きく変化している。
2008年に筆者は『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』という本を出版したが、あれから約20年。中国の製造業が日本を追い抜いて世界トップに躍り出たのと同様、今や日本の動漫はかつて中国の若者を惹きつけた圧倒的な魅力と力を失い、むしろかつての日本動漫ファンたちが今や中国のゲーム企業を運営し、その中国製ゲームが日本にも輸出されるようになり、中国国内だけでなく世界を席巻している。
◆日本の動漫に飛びついた1980年代の中国の若者たち
改革開放が動き始めた1980年代初期、鉄腕アトムが上陸すると、中国の若者はおろか大人さえみな「アトム」に憧れ涙した。こんな夢のような世界を楽しんでいいんだ。1966年から76年まで吹き荒れた文化大革命の残虐性から解き放たれた人々は、いやが上にも日本への尊敬と憧憬を掻き立てられた。
映画界でも高倉健が主演した「君よ、憤怒の河を渉れ」が1978年の日中友好条約締結の際に中国の主要都市で初めて公開された時には、中国の社会現象を巻き起こすほどの衝撃を与えた。無実の罪で連行される主人公の姿と、文化大革命での理不尽な扱いを受けた中国人自身の姿を重ね合わせ、観客は涙しながら映画にのめり込み、90年代末になってもなお、友人の北京大学教授が「どうだい?」と言いながら高倉健のポーズを真似するほど、中国人の心に食い込んだものだ。
日本動漫に至っては海賊版の普及により、貧困地でも観ることができるようになったので、2000年代初期で、日本動漫を見ずに育った「80后(バーリン・ホウ)」(1980年以降生まれ)はほとんどいないほどの席巻ぶりだった。
日本に留学する理由が、「日本の先進的技術を学びたい」から、やがて「日本動漫が好きだから」に変わり始めたのは90年代末で、「80后」が留学する年代に入ったころだった。面接する中国人留学生のほとんどが「日本を選んだ理由」として「日本動漫」を一番に挙げる者が急増し始めた。
何ごとか?
何が起きているんだろうという関心を持ったのが『中国動漫新人類』執筆のきっかけだった。留学生教育の現場にいた感触からの着眼だ。
それが今ではどうなっているのか、『中国動漫新人類』を書いた者として気になる。
◆かつての日本動漫愛好者が中国製ゲームを製造し日本にも輸出
あそこまで圧倒的な影響を中国にもたらした日本の動漫は、まちがいなく中国のかつての若者たちの心に深く刻み込まれており、見向きもされなくなったわけではない。このことは日本のJETROが<中国のアニメに関する市場調査 2025年度更新版>(※2)で詳細にリポートしている。ただ日本一強の時代は終わったと言っていいだろう。
問題は日本動漫愛好者だった若者たちが大人になり、かつての愛好を自分の中で消化し、中国独自のビジネス化に動いたということだ。日本動漫に釘付けになったのは、何も1980年に生まれた「80后」ばかりではない。その時に5,6歳だった人、10代だった人たちを含めれば、今はすでにおおむね45歳~55歳の年齢層をカバーしていることになる。日本動漫から受けた影響をビジネスに発揮する年齢はむしろ超えていると言っても過言ではない。
日本動漫全盛期だった90年代、中国政府は「精神汚染」を恐れて、中国製動漫制作の政策を奨励したが、許可制が厳しいので、「まるで幼稚園生に見せる動漫か」と若者たちにバカにされ普及しなかった。
そこで抗日戦争ものなら許可が下りやすいということで奇妙奇天烈な抗日戦争ものが流行り、むしろ中国政府の方で禁止したほどだ。なぜなら、たとえば無数の日本軍を倒すのに一人の軍人が奇術を使ったりなどして一網打尽にするといったバカげた設定で観客を引き付けようとしたりしたので、本当に抗日戦争で犠牲になった人々がかえって侮辱されるというのが、禁止した理由だ。
そんな時代を経ながら、中国では3Dアニメとゲームの世界が激しい勢いで成長し始めた。3Dアニメでは、たとえば特に去年の「哪吒(ナタ、魔童の大暴れ)」は159億人民元(約21.5億ドル、約3800億円)という史上最高の興行成績を出している。日本の手書き2Dアニメの技術を中国は持っていないので、逆にパソコン内で立体的に作りあげる3Dアニメ技術に特化した。
さらに特化したのはゲームだ。
筆者が『中国動漫新人類』を書くための取材を行なっていたときさえ、中国産動漫がまったくダメな状況にあっても、ゲームだけは中国もなかなかに強い側面を持っていた。
中国ではテレビそのものが普及していなかったので、いわゆる任天堂のような外部からテレビに接続する「ゲーム機」はまったくダメだったが、固定電話もなかったことから、いきなり携帯電話が発達したことが幸いして、スマホゲーム全盛時代がいきなりやってきた。
2017年に中国の動画配信サイト「ビリビリ(Bilibili」が始めたBilibiliWorld(BW)というイベントは、いわゆる中国版アニメ展ではなく、「中国企業のゲーム、配信者、バーチャルアイドル、コスプレ、グッズ・・・」などを中心として中国独自の巨大ゲーム産業と結びついた商業イベントへと発展した。
スマホゲームに火を点けたのは、「継続課金モデル」とアニメのように単なる視聴者から、「企業に介入する組織化されたファン」へと変貌していったからと言っていいだろう。
「BW2026」は170社以上、700ブース規模で開催され、ゲーム企業が約130社を占めているという。『原神』や『明日方舟』など中国発ゲームが主役で、上海に住む教え子の一人によれば、上海市も「ゲーム動漫月」として都市政策に組み込んでいるそうだ。
2025年の中国国内ゲーム市場は3,507.89億元(約8.4兆円)程度(※3)だが、2023年二次元産業の統計(※4)では「二次元ゲーム:803億元(約1.9兆円)(約67%)、アニメ:324億元(約7700億円)(約27%)、漫画:68億元(約1600億円)(約6%)」となっている。興行成績は明確に算出されるが、動画サイトでの収入はやや不透明なので、二次元に限定せず、全体としての正確な統計はない。したがって単純比較は正確には難しい。それでも金額的に比較すれば、大雑把に言って市場規模は「ゲーム全体:90%、アニメ全体:8%、漫画全体:2%」程度になるのではないかと思われる。
この中国産ゲームは海外にも輸出され、たとえば輸出比率は「アメリカ:32.31%、日本:16.35%」(※5)などとなる。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※6)より転載しました。
「日本に憧れた中国動漫新人類は今どこに?アジア最大級イベント「ビリビリワールド」が席巻する中国発ゲーム(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
中国の動画配信サイトbilibili(ビリビリ)(写真:VCG/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2026/632c6592a9063a38/animation.pdf
(※3)https://www.xinhuanet.com/20251219/71b9f7db89c84eee968cddeeeb86baf1/c.html
(※4)https://bg.qianzhan.com/report/detail/300/240731-4b754165.html
(※5)https://www.cnfin.com/hg-lb/detail/20251219/4353485_1.html
(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a6f04e2a13f6adafc1d61867fff2cfa17e6496df
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