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「傷つきやすい若者たち」と「過剰な甘やかし」 いまアメリカの名門大学で起きている“異常な事態”

 2011年頃から十代の女子のうつ病の罹患率が急増し、16年には女子のおよそ5人に1人がうつ病エピソードの基準を満たす症状を報告するようになった。もちろんこれには、うつ病の診断基準が変わったのではないかとの反論があるだろうが、「10代の自殺率がうつ病の増加と足並みをそろえて増加している」事実がこれでは説明できない。

 アメリカ国内の66の病院データを01年までさかのぼって調査し、国全体の自傷行為率を推定した研究では、15~19歳の男子では自傷行為が10万人あたり200人前後で推移していた。一方、同じ年齢層の女子では、01~09年は10万人あたり約420人と比較的安定して推移していたものの、10年以降はじりじりと増えはじめ、15年には10万人あたり630人に達した(同世代の男子の3倍の割合でハイティーンの女子は自傷行為をしている)。

 10~14歳では、女子の自傷行為はさらに急速に増加しており、09年に10万人あたり110人前後だったのが、15年には318人とほぼ3倍に増えた。同じ10~14歳の男子では調査期間を通して約40人だったから、ローティーンでは男子の8倍の割合で女子が自傷行為をしていることになる。

 自分には精神疾患があると回答した大学生の割合は、男子では12年の2.7%から16年の6.1%に増加し、女子では同時期に5.8%から14.5%になっている。驚くべきことに、今やアメリカの女子学生の7人に1人が、自分には精神疾患があると考えているのだ(ミレニアル世代の終わり頃では18人に1人だった)。

 2021年10月、Facebook(現Meta)の元従業員が内部文書をもとに、「マーク・ザッカーバーグら経営陣は、FacebookとInstagramが子どもたちに害を及ぼす証拠を知っていたにもかかわらず、収益を優先するために問題を放置した」と米上院の公聴会で証言した。現時点では決定的なエビデンスはないようだが、研究者のなかにも、若者のうつ病や自殺にSNSが関係していると考える者は多い。

リベラルな大学ほどキャンセルの嵐が吹き荒れる

 デジタルネイティブの若者たちは傷つきやすくなっており、だからこそ大学当局は学生を過剰に保護しようとして、状況をさらに悪化させている。

 アメリカは日本よりもはるかに徹底したメリトクラシー社会で、大卒の生涯収入は非大卒の2倍にも達する。そうなると、多くの若者が無理な奨学金を借りてでも、「大卒」の肩書を得ようとする。こうして、アメリカの大学の在籍者数は推定2000万人になり、同世代人口のおよそ4割に達した。

 それと同時に大学授業料が高騰し、「大学の企業化」が進んだ。大学職員は、年間で最高6万ドル(約800万円)もの授業料を納めてくれる学生をお客さまとして扱うようになり、善意と保身によって、学生の気分を害するおそれがあるものを過剰規制するようになった。その結果、子どもたちをピーナッツに触れさせないようにすると、逆にピーナッツアレルギーが増えるのと同じパラドックスが、アメリカの大学で起きているのだとハイトとルキアノフは主張している。

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