中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

氷河期世代が直面した過酷な就活と植え付けられた劣等感

 ようやく3年目に後輩は入ってきましたが、2年目に「先輩」としての経験ができなかったのは、社会人としての成長の遅れにも繋がったかもしれません。「雑用期間」が2年続いただけではないか、なんてことすら考えてしまいます。

 いや、こんなことを言っていても、私は恵まれていたと思います。なにしろ我々の同世代は正規雇用を獲得すること自体が難しかった世代です。職場にも同世代の派遣社員が何人も入ってきました。本来であれば、正社員として私と同じ会社に入れたかもしれない方々です。なかには、金持ちの家庭のお嬢さんで、あくまでも“結婚までの繋ぎ”として派遣社員をやっていることを公言する人もいましたが、「私、内定ひとつも取れなかったんだよね。中川さんのこと、正直羨ましくてしょうがない」なんて言う方もいました。

 そんな正規への道があまりにも狭かったボリューム世代の我々に対し、政府はこれから3年間で30万人の正規雇用を推進する戦略を取ると発表。「氷河期世代」ではなく「人生再設計世代」と呼んで下さるようです。

 でも、もう遅い。せめて35歳までに同様のプログラムをやってほしかった。結局、低賃金&不安定な雇用もあったがゆえに、結婚すらままならず、第2次ベビーブーム世代の我々は「第3次ベビーブーム」を作ることができなかった。今さら非正規から正規雇用になったところで、新たなスキルを獲得するには年を取りすぎているし、それで皆が結婚できるようになるとも思えない。

 2017年に「牛乳石鹸」のネットCMが炎上しました。俳優・新井浩文がサラリーマンの父親役を演じ、息子の誕生日に早く帰る約束をしていたのだけれど、その日は居酒屋で部下の愚痴に付き合って帰るのが遅くなり、妻からなじられる、といった内容でした。その中で、主人公は、「(バブル期に30~40代だったであろう)父親ができたことを中年になった私はできていない。実に情けない」と考えます。

 炎上の理由は様々でしょうが、私はあのCMの主人公の「オレは“普通の生活”さえ家族に提供できていないのか」といった氷河期世代ならではの嘆きは案外共感できましたし、炎上した時は、「あぁ、こう嘆くことさえ非難の対象になるんだな」と暗澹たる気持ちになりました。

 親世代が当たり前のようにできたことが、自分たちにはできなかった。それはこれからも変わらないだろう──これが、時代に翻弄された氷河期世代が抱える心理であり、諦めにも似た劣等感につながっているのではないでしょうか。

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