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【「山田さん」「スミスさん」「タロウ」「マイク」】日本人社員と外国人社員が一同に介する場での「呼称」問題の厄介さ

日本人と外国人が混じった会議ではどうする?(写真:イメージマート)

日本人と外国人が混じった会議ではどうする?(写真:イメージマート)

 日本企業では、かつては上司が部下を呼び捨てにし、部下は上司を役職で呼ぶのが当たり前だったが、最近は「さん」づけで呼称を統一しているところが増えているという。なぜこうした“ルール”が導入されるようになったのか。話題の新刊『世界はなぜ地獄になるのか』で「政治的に正しい」言葉づかいについて詳細に論じている、作家・橘玲氏が解説する。

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 小学生の娘が学校での出来事を話すのを聞いていて、私の知人は強い違和感を抱いたという。「山田さんがこんなことをした」「佐藤さんがこんな話をした」というクラスメイトについての他愛のない報告なのだが、そのうち辻褄が合わなくなってきて、あらためて問い質すと2人とも男子生徒だったというのだ。

「ジェンダーフリーが徹底された最近の公立学校は、男も女も「さん」づけなんですよ」と知人はぼやいた。「「男の子は男らしく」「女の子は女らしく」育ってほしいというのは、もはや“差別”なんですかねえ」

 会社でも、かつては上司が部下を、先輩が後輩を呼び捨てにし、上司を役職で呼ぶのが当たり前だったが、いまでは役職や年齢、入社年次にかかわらず「さん」づけで統一するところが増えている。社長が平社員を「山田さん」と呼ぶようなことは、少し前だと想像すらできなかったが、いまだと「山田」と呼び捨てにするとパワハラだと思われそうだ。

 ここで興味深いのは、欧米(とりわけ英語圏)では、役職にかかわらず、社員同士がファーストネームを呼び捨てにするのが常識になっていることだ。Facebook(現Meta)の創業者でCEOでもあるマーク・ザッカーバーグは個人資産7兆円(株価低迷で2021年からの1年間で11兆円減少した)の大富豪で、議決権の過半数を握る絶対的な権力者だが、それでも社員からは「マーク」と呼ばれている。──日本の会社で、新入社員が社長に「一郎」などと呼びかけたら、その場が凍りつくだけではすまないだろう。

 しかし、この大きなちがいにもかかわらず、日本とアメリカの呼称の変化には共通するものがある。それは、「全員を平等に扱う」ことだ。誰かを呼び捨てにして、別の誰かに「さん」や「ミスター」をつけることは、現在の価値観では不適切だと見なされるようになった。

 これは、人間関係に上下をつけてはならないからではない。学校では「みんな平等」でいいかもしれないが、会社組織は役職による指揮系統で機能している(部下は上司の指示に従わなければならない)。「マーク」と呼び捨てにするFacebookの社員も、相手がひと言で自分を解雇するとてつもない権力をもっていることは、当然、強く意識しているだろう。

 だとしたら、なぜ全員の呼称を統一しなければならないのか。それは、相手との「距離」を同じにするためだ。

 リベラル化する社会では、パブリックな場で相手によって呼称を使い分け、恣意的に距離を操作することは許されなくなってきた。ここではそのことを、すこし詳しく考察してみたい。

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