65歳になる前に年金を前倒しで受け取る「繰り上げ受給」。毎月の年金受給額は減額されてそれが生涯続くが、生活の不安や年金制度への不信感から、「減額されても早くもらっておこう」と考える人は少なくない。特に国民年金受給者は4人に1人(2020年時点で26.1%)が繰り上げを選んでいる。
さらに昨年4月に実施された年金改正で、減額率が1か月早めるごとに0.5%減から同0.4%減に下がったことで繰り上げがより選びやすくなった。
たとえば年金月額10万円のケースで計算すると、従来は受給開始を5年前倒しして60歳から受け取ると、30%減額されて7万円しかもらえなかった。それが年金減額率の縮小により、「60歳受給」を選んでも24%カットの月額7万6000円が支給される。
さらに、65歳未満のサラリーマンが再雇用などで働きながら繰り上げ受給で年金(在職老齢年金)をもらう場合、これまでは「給料+年金(2階部分)」の合計が28万円を超えると年金がさらにカットされた。繰り上げによる減額とのダブルの減額になり、そのことがサラリーマン(厚生年金受給者)が繰り上げを選びにくい大きな原因だった。
だが、昨年4月には在職老齢年金のカット基準は大幅に緩和された。現在は「合計48万円」まではカットがない。年金(2階部分)が月額10万円の人が、60歳繰り上げを選べば受給額は7万6000円になるが、月給40万円稼いでも「48万円」未満なので働きながら年金をもらってもそれ以上はカットされない。厚生年金加入者も繰り上げが選びやすくなった。
ところが、繰り上げ受給には“落とし穴”もある。年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「長寿社会になって損をしているのは圧倒的に繰り上げを選んだ人たちです。国民年金に加入していた自営業者の方には60歳からの繰り上げを選んでいる方がかなりいますが、70代半ばを過ぎてもまだまだ元気です。ゴルフや趣味のスポーツを楽しんでいる人が多く、“やっぱり65歳受給にしておけばよかった”と悔やむ声をよく聞きます」(以下、「 」内は北村氏)