現在、電車の中でたばこを吸えるのは、東海道・山陽・九州新幹線、JRの寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」、そして私鉄では近畿日本鉄道(以下、近鉄)のみ。新幹線の喫煙室は3月16日のダイヤ改正日に合わせすべて廃止されることが決定されているが、それより一足早く、近鉄は3月1日から特急車両の喫煙室を廃止する。
近鉄線は私鉄で唯一喫煙室を残していた鉄道路線だったが、これにより、喫煙可能な私鉄は日本から全て無くなることとなった。
背景には、受動喫煙への対策や、2020年4月に施行された「改正健康増進法」の影響がある。近鉄では、2020年2月に「喫煙車」を全面廃止したあとも特急車両内には「喫煙室」を設けていたが、それがついに廃止される。
電車の中でたばこが吸えるという、1914年の近鉄発足時から続いていたひとつの歴史が幕を閉じるわけだか、近鉄特急に乗る喫煙者たちはどう感じているのか。当事者たちに話を聞いた。
近鉄線から景色を見てたばこを吸うのはこれが最後
仕事の関係で、大和西大寺から京都までよく近鉄特急に乗車するという男性(50代)は、喫煙室の廃止について「知らなかった」と驚く。
「初めて聞きました。出張でよく乗っていますが、そうなんですか……。個人的には喫煙室は残してほしいですが、においや吸い殻などが嫌われやすい時代になっているので、廃止も仕方ないとは思います」
喫煙者への風当たりは年々強くなり、ルールやマナーを守っていても、肩身の狭い思いをせざるを得ない。このような時勢の変化に対しては、他にも「仕方ない」「時代だから……」といった声が聞かれ、諦めの感情を持つ喫煙者は少なくないのだろう。
「近鉄線は喫煙室の窓が広く、眺めが良くて、気分転換をするのに丁度いいんですよ。仮眠を取るには中途半端な乗車時間なので、喫煙室で一服するのが私にとって一番の時間の潰し方です。
最近はたばこが吸えるところが少なくなってしまって、取引先も全面禁煙です。仕事の移動中、近鉄線の特急だったら確実に喫煙室があるので助かっていたんですけど、無くなるのは寂しいですね」(前出・50代男性)