ただ、石破首相の発言は、就任前と現在とではかなり異なっている。このコラムが出るタイミングでまた変わっているかもしれない。おそらくこのブレは党内の力関係によって生じているもの。なので、石破首相の本音、本当にやりたい政策は、自民党総裁選時の公約にあると考えたい。いま石破首相の本音に近いところを代弁しているのは、総務相に就任した村上誠一郎氏と思われ、物価高・円安はアベノミクスの負の遺産だと発言している(10月2日の就任会見にて)。
「反アベノミクス」策は景気の低迷を加速させる
では、反アベノミクスを掲げて、新政権は、どのような経済政策を実行するのだろうか。当然、金利を引き上げ、増税を断行し、財政健全化を目指すことになると思われる。しかし、このような政策は、景気の低迷をさらに加速させる可能性を十分に含んでいる。なぜこのような政策を選択するのか。ここには、経済の論理ではなく、反安部的な政治スタンスが絡んでいるように、僕には見える。
安倍政権時代、株価は上がりはしたが、日本経済は低迷から脱することができなかった。これは事実である。これを材料に、安倍政権の経済政策であったアベノミクスは失敗であったと結論づけ、安倍政権時代を暗黒の時代だと定義したいという動機が、反安部勢力には透けて見える。
しかし、このようなアベノミクス理解には問題がある。アベノミクス=金融緩和という理解は、その一面しか捉えていない。もう忘れられがちであるが、アベノミクスには3本の矢があった。第1の矢は金融緩和、第2の矢は財政出動、第3の矢が成長戦略である。金融緩和は第1の矢にすぎない。アベノミクスが減速したのは、第2の矢、財政出動が発動できなかったからである。このことを理解しないでアベノミクス、安倍政治を批判していれば、一見正しいように見えるかもしれないが、現実を捉え損ねてしまいかねない。
たとえば、当時、立憲民主党の代表だった枝野幸男氏は、「本来効果が上がるはずの金融緩和をとことんアクセルを踏み、財政出動にとことんアクセルを踏んでも、個人消費や実質賃金という、国民生活をよりよくするという経済政策の本来の目的にはつながらないところで止まっているのではないでしょうか」と、あたかも第2の矢が放たれたような前提で批判をしていた(2018年7月20日衆院本会議)。
しかし、安倍政権下の公共事業関係費は鳩山民主党政権下の公共事業関係費の当初予算よりもむしろ低い。では、なぜ第2の矢が放たれなかったのか? 財務省が邪魔をしたからだと、痛烈に財務省を非難したのが、経済アナリスト・森永卓郎氏の『ザイム真理教』である。