客からしても、他店より各段と安く買えるだけでもありがたいのに、選択肢も大きく広がるのだから、まさにウィン・ウィンの商法と言えた。高利こそ、「店前売り」「現金売り」「値引き」「切り売り」など、今日では当たり前になった小売業スタイルの元祖なのである。江戸町人の新たな需要を創出したとも言えるそれらの商法は、メンツを大事にする大店にはハードルが高く、高利のような新参者だからこそできた芸当という一面もあった。
■後編記事《【江戸のビジネス革命】“新参者”三井越後屋が商売敵からの壮絶な営業妨害を乗り越え“呉服商と両替商の二刀流”で盤石の経営を築けた秘密》に続く
【プロフィール】
島崎晋(しまざき・すすむ)/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』など著書多数。近著に『呪術の世界史』などがある。