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名医が教える生活習慣病対策

自覚症状がないため放置されやすい「脂質異常症」 コレステロールの異常が動脈硬化を引き起こし心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める【専門医が解説】

「酸化」と「糖化」がLDLコレステロールを悪玉にする

 LDLコレステロールは悪玉とされていますが、動脈硬化を引き起こしているのは変性したLDLコレステロールです。変性したLDLコレステロールが白血球の1つであるマクロファージに取り込まれることで粥腫が形成されるからです。

 体の中に存在するすべての変性したLDLコレステロールを簡便に測定する方法は、現時点では開発されていません。しかし、LDLコレステロール値が高い人は、変性LDLコレステロール値も高いことが予測されるので、一般的にはLDLコレステロール値を測定します。ちなみに、高LDLコレステロール血症の診断基準は、空腹時採血で140mg/dL以上です。

 LDLコレステロールを変性させる代表的な原因は「酸化」と「糖化」です。酸化は、体内で増えた活性酸素によって起こります。人間は酸素を吸ってエネルギーを作り生命活動を営んでいますが、体内に取り込まれた酸素の一部は活性酸素に変化します。

 活性酸素が過剰に増えると細胞膜やDNAを攻撃し、老化や病気のリスクを高め、さらにはLDLコレステロールを酸化変性させます。これが血管壁に沈着して動脈硬化の原因となります。

 糖化とは、たんぱく質と糖が結びついてAGE(終末糖化産物)という有害な物質が作られる現象です。食品を加熱することでこんがりと焼き色が付く現象が糖化反応(メイラード反応)で、糖化は食品だけでなく体内でも体温にあたる36~37℃で起こります。体内で糖化反応が発生し、AGEが生成されることは40~50年ほど前に証明されました。

体内でAGEが増えると、様々な老年病のリスクが高まる

体内でAGEが増えると、様々な老年病のリスクが高まる

 私は長年、糖化とAGEの研究に取り組んできましたが、きっかけは病歴の長い糖尿病患者の老化が加速しているのではないかと気づいたことでした。糖尿病患者は、動脈硬化が進展して心筋梗塞や脳梗塞になったり、骨がもろく骨折しやすくなります。また、がんや認知症を発症するケースが多いのも事実です。

 それらの原因を解明しようと研究する中で、糖化によるAGEの産生亢進が影響しているとことがわかってきました。糖尿病患者は、インスリンの分泌が少なかったり、その働きが悪くなることで糖をうまくエネルギー源として利用することができません。その結果、糖が血液中にあふれて血糖値が高くなります。

 血中で高血糖状態が続くと体内のたんぱく質と過剰な糖が結びついて糖化反応が起こり、AGEが促進的に形成されます。糖化はたんぱく質の機能を劣化させることがわかっていますが、骨の主要なたんぱく質であるコラーゲンに糖が付着しAGEができると、骨のしなやかさが失われ骨折しやすくなります。筋肉は糖化によって筋力の低下を引き起こしますが、AGEはがんや認知症にも悪影響を及ぼし老化を進行させます。

 糖尿病患者は、LDLコレステロール値がそれほど高くなくても、糖化により変性を受けたLDLコレステロールの割合が高くなるため、動脈硬化が進みやすくなります。したがって糖尿病患者は、非糖尿病患者よりLDLコレステロールの値を低く管理する必要があります。

「糖化でできたAGE(終末糖化産物)は、がんや認知症にも悪影響を及ぼし老化を進行させます」と語る山岸教授

「糖化でできたAGE(終末糖化産物)は、がんや認知症にも悪影響を及ぼし老化を進行させます」と語る山岸教授

【プロフィール】
山岸昌一(やまぎし・しょういち)/昭和医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学部門主任教授。1989年金沢大学医学部卒業。同大学講師、米国ニューヨーク、アルバートアインシュタイン医科大学留学を経て、久留米大学医学部教授を10年以上勤め、2019年より現職。糖尿病患者の老化に関連するAGE(終末糖化産物)を長年研究し、世界最大規模の学会である米国心臓協会最優秀賞ほか、日本糖尿病学会学会賞、日本抗加齢医学会学会賞などを受賞。『老けない人は何が違うのか』(合同出版)、『糖から学ぶ老いを撃退する生活術』(Amazon電子書籍)など著書多数。

■後編記事:「まずは食生活の改善から」動脈硬化を進行させる「脂質異常症」の予防・治療ポイント 食後の血糖値上昇を抑制するために知っておきたい「食品別のGI値」【専門医が解説】

取材・文/岩城レイ子

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