ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
親や教師に飼い慣らされた日本人
海外では高い給料を求めて転職するのが当たり前だ。ところが、日本人は飼い慣らされた犬のように今いる会社でじっとしている。
実は、日本ほど業種、業界、会社、地域による給与格差が大きい国はない。ならば自分のスキルを磨き、より給料が高い業種、業界、会社、地域に移っていくべきだろう。しかし、多くの人は現状に甘んじている。つまり、日本人の給料が上がらない理由は「上昇志向」が足りないからなのだ。
かつての日本人は違った。“坂の上の雲”を目指した明治維新前後、あるいは1950年代後半~1970年代前半の高度経済成長を牽引した人たちは非常に上昇志向が強かった。
たとえば、パナソニック創業者の松下幸之助さん、本田技研工業創業者の本田宗一郎さん、オムロン創業者の立石一真さん、ヤマハ第4代・6代社長でヤマハ発動機創業者の川上源一さん……彼らは大学を出ていなくても、英語ができなくても、狭い日本を飛び出して果敢に世界で勝負した。
ところが、今は「子供に将来就いてほしい職業」を親に聞くと、ビズヒッツの調査では1位が公務員、2位がエンジニア・プログラマー、3位がスポーツ選手、AZWAYの調査では1位が会社員、2位が公務員、3位が薬剤師だ。
一方、そんな親に育てられている小中高生の「憧れの人」は、第一生命の調査によれば1位が大谷翔平選手、2位がお父さん、3位がお母さんである。大谷選手はともかく、憧れの人が父親や母親というのは、あまりにも夢がない。親も子も自分の“分際”を決め、生活が安定してさえいれば御の字と考えているのだろう。
こうした日本人の国民性は「偏差値教育」の弊害にほかならない。一般的に偏差値の高い生徒が有名校に進学し、大手企業や役所に就職しているため、社会人になってから、ある種の“粘り”や“上昇意欲”が失われてしまうのである。
日本人は謙虚さが美徳とされるが、明治維新前後や戦後は従来の秩序が破壊され、それが国を動かす大きな力になった。現在の日本の閉塞的な状況を打ち破るためには、偏差値のような人為的なものを排除し、人間の能力(そして給料)は努力によって引き上げられるという社会通念の普及に力を入れるべきなのだ。