*11:09JST リソー教育 Research Memo(9):「こどもでぱーと」による囲い込み戦略で持続的成長を目指す
■リソー教育<4714>の今後の見通し
2. 中期経営計画
(1) 市場環境認識と主な取り組み
同社は2027年2月期までの3ヶ年の中期経営計画を2024年4月に発表した。市場環境としては、少子化が進行するなかで同社が主力エリアとする首都圏の子ども数は堅調に推移し、また公教育サービスへの不安感から私立小学校及び中学校を受験するため進学塾への通塾ニーズも堅調に推移すると見ている。一方で、学習塾業界における生徒獲得競争が継続し、業績面での二極化が進行することで業界再編の動きが加速すると見ている。
こうした経営環境の変化に柔軟に対応し、持続的な成長を実現するため、より一層の経営の効率化を目指したグループ体制を構築すべく、2025年9月に持株会社体制に移行することを発表した。同社を(株)リソー教育グループに商号変更してグループ子会社の経営管理等を行う持株会社とし、学習塾事業、英語スクール事業及び生徒募集勧誘事業は新たに設立した(株)TOMASに承継する。
成長戦略としては、生徒数拡大施策、出店エリアの見直し及び校舎のスクラップ&ビルド、異業種との提携による新規事業の育成、DX戦略などを推進する。生徒数拡大施策としては、需要が見込めるエリアでの新規開校や顧客満足度の向上(生徒・保護者との密なコミュニケーション)による退会率抑制、難関校への合格実績を拡大するための優秀な講師や社員の確保・育成に取り組む。また、異業種連携としてヒューリック、コナミスポーツとの3社で開発を進めている、子ども向けサービスをワンストップで提供する教育特化型ビル「こどもでぱーと」を2029年度までに首都圏で20棟展開することを目標に掲げている。同ビル内では、同社グループの「TOMAS」「伸芽会」「伸芽’Sクラブ託児・学童」や、コナミスポーツ等が入居し、乳幼児から高校生まで複数の教育サービスを同一拠点で提供でき、同じビル内に子ども向けサービスがあることで保護者の送迎負担も軽減される。子どもを勉強と運動の両面でバランス良く育てたいというニーズは強く、好立地で各種サービスを提供することでこれらのニーズを取り込んでいく。同社にとっては、乳幼児から顧客を囲い込むことで顧客のLTV最大化とグループシナジーが期待できるため、収益の一段の成長につながる取り組みとして注目される。
(2) 経営数値目標
業績目標としては2027年2月期に売上高38,260百万円、営業利益3,360百万円、経常利益3,360百万円、親会社株主に帰属する当期純利益2,000百万円を掲げた。3年間の年平均成長率は売上高で5.9%、営業利益で8.5%となる(同計画値には新規事業となる「こどもでぱーと」の効果を織り込んでいない)。営業利益率は2024年2月期の8.2%に対して2027年2月期は8.8%まで引き上げる。優秀な講師・正社員の採用、定着のための給与ベースアップによる人件費の増加を、広告宣伝費をはじめとした諸経費の最適化やDX推進による業務効率の向上で吸収する方針だ。
1年目となる2025年2月期は売上高が若干未達となったものの、各利益は超過達成した。2026年2月期は前期の流れを引き継ぎ売上計画について若干引き下げたものの、各利益は上方修正し親会社株主に帰属する当期純利益に関しては1年前倒しで当初計画を達成する見通しだ。また、2027年2月期のROEは14.5%と2024年2月期の19.0%からやや低下するものの、引き続き10%以上の水準を維持する計画となっている。弊社では利益ベースでは達成確度の高い堅実な計画と見ている。
(3) 事業別の見通し
a) 学習塾事業
学習塾事業の売上成長率は年率7%程度を計画している。校舎展開については首都圏で年間3~5校ペースで新規開校し、手狭となった教室については増床または移転リニューアルを実施する。「インターTOMAS」や「メディックTOMAS」については、「TOMAS」が進出しているエリアで需要が見込めると判断した場合に開校する。また、校舎数の拡大に加えて既存校における顧客サービスの徹底により、退会率を抑制し生徒数の拡大を図る。新規生徒の募集については、紙媒体広告をWeb広告に切り替えるなど費用対効果を重視し効率的に進める方針だ。
b) 家庭教師派遣教育事業
家庭教師派遣教育事業の売上成長率は年率1ケタ台前半の水準を計画している。家庭教師派遣の「名門会」は、大都市圏への集中展開と校舎のスクラップ&ビルドを推進するが、「TOMEIKAI」は地方の少子化進行を背景に生徒だけでなく学生アルバイト講師の獲得も難しくなっていることから新規開校は行わず、既存校の収益改善に取り組む。こうしたなか、双方向型オンライン授業「名門会Online」の生徒獲得を「MOPS」での展開も進めながら強化し、2026年2月期から増収基調への復帰を目指す。
c) 幼児教育事業
幼児教育事業は年率5%前後の売上成長を目指す。「伸芽会」「伸芽’Sクラブ託児」「伸芽’Sクラブ学童」をそれぞれ年間1校ペースで開校する計画(伸芽’Sクラブ学童にはコナミスポーツ伸芽’Sアカデミーも含む)だが、実際には「こどもでぱーと」が2025年春よりスタートしたことから、校舎の増加ペースも加速する可能性がある。
「こどもでぱーと」の進捗状況については、東京都城南エリアや横浜、千葉エリアなどで合計6件のプロジェクトが具体化している。2025年4月に2棟を開業したのに続き、2027年に竣工予定の複合ビル「MITAKE Link PARK(渋谷)」内にも展開することが決まっている。ヒューリックでは2029年までに首都圏の主要駅をターゲットに20棟まで広げる構想を描いているが、校舎や教室の運営に必要となる講師やスタッフのリソース確保が重要なため、構想どおりに進まない可能性もある。とはいえ、同社にとっては駅前好立地の物件を独力で探す必要がなく、複数の教育サービスを同時に開校できるため事業効率の観点からもメリットが大きく、同社の収益成長をけん引する取り組みとして注目される。
d) 学校内個別指導事業
学校内個別指導事業については、年率10%の売上成長を目指す。学校の進学実績向上や教師の長時間労働問題の解消に寄与するサービスとして全国の私立学校から問い合わせが入っている。将来的に導入校数を200校まで拡大することができれば、売上規模で60~80億円(2025年2月期34億円)程度が見込まれ、中期的に収益拡大に貢献する見通しだ。
(4) DX戦略の推進
同社は2024年2月期からグループ全体のDX戦略推進に着手している。具体的な取り組みとして、グループ各社で保有する顧客データベースの統合、講師が手書きで作成しているレポートを情報端末で作成できるようにするシステムの構築、顧客接点となるスマートフォンアプリケーションの開発、教室・拠点間のネットワーク設備の増強などに、2026年2月期までに697百万円を投下し、業務効率並びに顧客満足度の向上を図る。教務社員がDXによって削減した事務作業時間を生徒や保護者へのフォローアップ、営業提案などの時間に振り向けることで顧客満足の向上につなげる。顧客データベースの統合は2025年6月に完成し、運用を開始する予定となっている。完成後は重複機能の統一化による費用の効率化だけでなく、ブランド横断的アプローチによる顧客の囲い込み戦略が従来以上に進むものと期待される。DX関連費用については2026年2月期がピークとなる見通しだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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