損切りラインではなく、「ストーリーの破綻」で撤退する
私の場合は、損切りラインを設定する代わりに、新たに買う銘柄について「儲けにつながるストーリー」を購入前に組み立てるようにしています。「Aという銘柄は、○○という事業を営んでいて、中期経営計画を見ると今後3年間で海外売上高を××%伸ばすつもりのようだ。ならば、いまよりも利益が増えると考えられるから、ちょっと買ってみよう」──ストーリーと言っても、このくらいのレベルです。こうしたストーリーを描けない場合には、その銘柄へは投資しません。
余談ですが、証券アナリストをしていた時代、会社の営業スタッフに「この銘柄には、どんなストーリーが設定できる?」とよく聞かれました。お客様である個人投資家に対し、ファンダメンタル分析の細かい数字を見せても反応が悪く、見向きもされないのに対し、そこにストーリーがあると多く人が反応してくれるのだそうです。人は、物事を理解するのにストーリーが必要だと言う人もいます。
話を戻します。自分なりの「儲けにつながるストーリー」を立てて購入したあとは、年に1度くらい、その見立てが実際にはどうなったのか、決算資料などを通じて確認します。見立てどおりになっていればそのまま保持ですが、どうやらストーリーとは違う展開になっているみたいだと感じたら、スパっと見切って売却します。そのとき含み益になっているか、含み損になっているかは二の次です。投資期間が長いのんびり投資のスタイルでは、この方法で見切る銘柄を見極めるほうが、手元に残る利益を最大化できるでしょう。
損切りした後に株価が反転上昇したJT株
自分の投資ポリシーを信じて後悔しない
例をひとつ挙げます。JT(東証プライム・2914)です。高配当銘柄としてよく知られていますね。私も、その恩恵を享受したいと考える投資家のひとりでした。そこで「この企業の稼ぎ頭は、ロシアで行っている事業。ロシア事業が好調な限りはホールドし続ければいいだろう」とのストーリーを立て、2017年から少しずつ買い増していきました。
ところが2022年2月に、ロシアがウクライナへの侵攻を開始。ロシア関連ビジネスには一気に不透明感が広がりました。西側諸国は、ロシアとの取引をどんどん縮小していきました。日本も欧米諸国にお付き合いし、それなりの規模の経済制裁を行ないます。私は2022年の3月くらいには、投資時に立てた「儲けにつながるストーリー」が完全に破綻したと判断し、当時30万円ぐらいの含み損を抱えていたように記憶していますが、スパっと見切って全部売りました。
その後の同社株は、2022年春に2200円ぐらいだった株価が、2024年には4500円前後まで上昇しています。ウクライナ侵攻の影響は、株価に、さほどなかった格好です。私は損切りをしましたが、いまでも持っていれば相当な利益が出たはずです。
しかし、当時の自分の選択をまったく後悔していません。自身の投資ポリシーに沿ったものだったからです。ちなみに当時、JTを売却して得た資金は、その後に別の銘柄の購入資金としました。それらの銘柄の株価が上昇しているため、いまでは損切った分以上の利益につながっています。
※さかえだいくこ・著『2倍株・3倍株がぽこぽこ生まれる のんびり日本株投資』を元に一部抜粋して再構成
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【プロフィール】
さかえだいくこ/大学常勤講師。日本FP協会認定CFP。日本証券アナリスト協会認定証券アナリスト。21歳で証券会社に口座を開設して以来、証券アナリストだった時代を除いて投資を続け、投資家歴は30年超。システムエンジニア15年、証券アナリスト7年半、地方公務員5年半を経験し、49歳でFIREを達成。しかし、50歳目前で、某企業の研究員として週休3日の会社員に復帰。その後、北東北の大学で非常勤講師としてキャリア教育にも従事し、53歳で常勤講師となる。