*09:00JST トランプの対ロ戦略【フィスコ・コラム】
トランプ米大統領のロシアに対する外交政策が動き始めました。ウクライナ戦争ではロシアに肩入れした解決を目指したにもかかわらず、戦闘が継続していることに業を煮やし新たな対ロ制裁を模索。米ロ首脳会談はルーブル高バブルにどう影響を与えるでしょうか。
トランプ氏は昨年11月の大統領選前から、ウクライナ戦争の仲介に自身が乗り出せば24時間以内に終結できると豪語していました。が、思惑通りに事態は進まず、明らかに態度を変えたトランプ氏は、ロシアがウクライナとの和平合意に向けて前進する姿勢を見せなければ、ロシアとロシア産エネルギーを購入する国々に新たな制裁を科すと表明しています。
実際、インドに対しロシア産原油の大量輸入を問題視し、米国からの先端技術移転の制限や貿易優遇措置の再検討を決定。これまでトランプ政権は中国けん制の観点からインドとの関係強化を図ってきましたが、ロシアへの経済支援と見なされる取引には厳しく対応する構えです。バイデン政権時代のような「戦略的黙認」は放棄され、エネルギーの脱ロ依存が各国に求められる局面に入りました。
一方、足元では米中間の関税引き下げ交渉が前進しているものの、ロシア支援に関与した中国企業への制裁対象追加が議論されています。表向きの協調ムードの裏で、トランプ政権は中国によるロシア産LNGの購入や軍事物資供与の実態を徹底調査し、「ビジネス優先」の対中路線は早期に転換される見通し。米中の経済的デカップリングが再加速すれば、対ロ制裁の実効性は格段に高まります。
トランプ氏の対ロ外交は、当初の融和的姿勢から一転し、強硬路線へと舵を切ったかに見えました。ロシアとの早期妥結に期待をかけていた市場は方向感を失い、各国のエネルギー政策と貿易戦略の見直しを迫られています。強権的な交渉術は、敵味方の線引きを曖昧にしてきた国々に明確な選択を突きつけました。ウクライナ戦争の終結を目標にしながらも、実質は対ロ・対中包囲網の再構築に向けた布石が着々と打たれつつあるようです。
ロシア通貨ルーブルは今年に入って上昇基調を強め、足元で1ドル=80ルーブル付近まで下落(ルーブルは上昇)。しかし、現在は過大評価されており、目先は下げに転じると専門家は予想しています。トランプ政権のロシアに対する新たな制裁に踏み切れば大きな打撃を与える、というのが市場の見立てです。その場合、1ドル=100ルーブル台に上昇し、ロシア発の金融危機につながる事態も指摘されます。
(吉池 威)
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