2021年の自民党側への献金額は総額約6億円
そうした日医の最重要事項が診療報酬の「プラス改定」だ。それを果たすための力の源泉が「票とカネ」である。
全国には2万人近い自民党員の医師がいて、国政選挙や地方選、首長選で“貸し”をつくる。さらに日医連は厚労族や党幹部ら一部の有力議員の側に数百万円単位、ほかの議員には年間100万~50万円の献金をしている。
政権中枢への献金額はさらに跳ね上がる。日医連は2021年9月の自民党総裁選当日、勝利した岸田文雄氏の資金管理団体に1000万円の大口献金をした。その後の2022年度と2024年度の診療報酬の改定率は、2回とも岸田の「首相裁定」によりプラス改定で最終決定している。
同じく2021年秋、日医連とその関連団体は、当時財務相だった麻生太郎氏率いる麻生派の政治団体「志公会」に計5000万円を献金した。
その他、党自体への献金や議員へのパーティー券購入などを合わせると、2021年の日医連側から自民党側への献金額は総額約6億円にも上る。
問題は、政界に流れる日医連の巨額マネーの原資である。彼らの活動資金の元となる医療費の9割近くは私たちが支払った保険料と税金、つまり「公費」ということだ。国民の医療費が膨らみ続ける一方で、それが政界に流れ、開業医の利益に還元されている側面があるのだ。
しかし、ムダな医療費を削るために私たちにもできることがある。医療に関する正しい情報を持ち、患者が医師を選べばいいのだ。
これまでは医師と患者の「情報格差」につけ込まれ、気付かぬうちに余計な管理料を取られてきた。この構図を変えることが重要だ。何も専門的になる必要はなく、医師に質問するだけでもいい。「毎月通院する必要はあるか」「この診療明細書にある管理料は何か」と聞くだけでも医師の対応が変わる可能性はある。
それでも納得する答えが得られなければ、医療機関を変えることも選択肢となる。冒頭のAさんも良心的な医師を探し、新たな診療所を受診することで診療代も薬代も大幅に減ったという。
歪んだ日本の医療を変えるのは、私たち患者の賢い選択だと確信している。(談)
【プロフィール】
杉谷剛(すぎたに・ごう)/東京新聞編集委員。1963年、兵庫県生まれ。東京新聞編集局編集委員。早稲田大学を卒業後、1987年に産経新聞入社。1991年に中日新聞入社後、社会部、バンコク支局長などを歴任し、東京新聞社会部長を経て現職。共著に『被告の背中』(東京新聞出版局)、『兵器を買わされる日本』(文春新書)など。
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号