政界にも大きな影響力を持つ「日本医師会」とはどのような団体なのか
医療費の高騰が社会問題になっている。高市早苗政権が医療費改革を打ち出し、財務省も開業医の利益率が高いとして報酬の是正を訴えるなか、「既得権」を守ろうと活動してきたのが日本医師会だ。このたび『日本医師会の正体』(文藝春秋)を上梓したジャーナリストの杉谷剛氏が、同会による診療報酬の値上げ策略と政界工作を明かした。
診療内容は同じなのに4.7倍に
都内在住の女性Aさんは6~7年前から高血圧、糖尿病、脂質異常症の80代の父親に付き添い、地元の診療所に通っていた。
異変が起きたのは昨年9月のことだった。窓口で支払う父親の2割負担の診療代が、いきなり1170円から1830円に値上がりしたのだ。しかも、それまでは3か月に1回の通院だったが、「これから毎月来てください」と言われた。以前と比べると、年間の自己負担は年4回の計4680円から年12回の計2万1960円と4.7倍に跳ね上がる。
診療内容は同じなのになぜ診療代が高くなったのか。疑問を持ったAさんが調べたところ、2024年6月からの診療報酬改定で新たに生活習慣病の診療代を請求されていることに気づいた。
診察や検査、調剤など約5000項目に及ぶ診療報酬は、2年に1度改定される。2024年度の改定では、高血圧、糖尿病、脂質異常症を対象とする「生活習慣病管理料」の【I】と【II】が新設された。
【I】は検査や注射、病理診断などの費用を常に含む包括料金。いわばサブスクで、検査が多ければ割安だが少なければ割高となる。一方、【II】は検査などの費用を実施のつど請求するため、半額程度となっている。どちらにするかは医師が選べる。
そこでAさんは「父の検査は少ないので頻繁な検査を必要としない患者向けの【II】にしていただけませんか」と訴えたが、医師は「うちが赤字になるから【II】にはしない」と答えたという。
私の取材ではAさん同様、昨年の改定後に診療所の開業医から「必要のない割高な【I】のほうを請求された」というケースは少なくない。その診療報酬改定に大きな影響力を持つのが「日本医師会」である。
