“闇グループチャット”内での業者たちの宣伝文(筆者提供)
12月1日をもって紙の健康保険証が廃止され、マイナ保険証に一本化された。その目的のひとつに偽造やなりすましを防ぐことがあったが、すでにその動きにも対応して、中国系業者が賃貸契約や不法就労に使える保険証等の「偽造身分証」を売りさばいている。その実態を、中国事情に詳しいフリーライターの廣瀬大介氏が明らかにする。【前後編の前編】
招待を受ければ誰でも参加可能
数年前から日本で頻繁に報じられている偽造身分証を使った犯罪の数々。今年5月、在留カードを偽造、販売したとしていずれも中国籍の男2人が逮捕された。中国にいる指示役とみられる人物から送られるデータをもとに、健康保険証などの身分証を偽造していたという。
筆者はこのような「偽造健康保険証」などを作成する業者への接触に成功し、実態に迫った。偽造業者の多くは中国系で、主にウィーチャット(中国版LINE)を販路として活用していたことが分かった。ウィーチャットには、在日中国人向けの様々なグループチャットが存在している。例を挙げると、「在日華人工作群」(在日中国人向け求人情報)、「美女工作群」(水商売に関する店舗売買や求人情報)などだ。
一部には“闇グループチャット”も存在しており、「税金申告をしない不法就労に関する求人情報」、「申告できない現金を中国に送金する地下銀行に関する情報」など犯罪性が疑われる投稿も数多く確認でき、所属メンバーからの招待を受ければ誰でも参加可能だ。
【各種偽造証明書を一式で手配します。在留カード、国民健康保険、労災保険、年金手帳、高所作業車証、溶接資格証、解体資格証、フォークリフト、建設関連の各種労働技能証、偽造運転免許証、日本語能力証、健康診断書など――工事現場で使うあらゆる技能証。品質良好、安全に郵送します】(原文は中国語)
これは、実際に偽造業者がグループチャットに投稿している宣伝文だ。同様の宣伝は多くのグループチャットに頻繁に投稿されており、需要の高さをうかがわせる。
その実態に迫るため、購入者を装い業者に接触した。「友人追加」をすると、数分後に返信があった。
「健康保険証など身分証は1枚650元(約1万3000円)で、2枚以上注文するなら割引で1枚500元(約1万円)で作成可能です」
周知の通り、12月1日をもって紙の健康保険証は廃止されたが、11月の取材時点でこの業者は保険証の値段を提示した。その意図は判然としないが、今後は保険証として使われるマイナンバーカード(マイナ保険証)について業者に訊ねると、「最近は免許証とマイナンバーカードの問い合わせが増えています。顔写真のデータを送ってもらえればそれぞれの完成サンプルを作成してお見せすることもできます」と説明された。
すでにマイナ保険証の一本化に対応した動きがあるわけだ。
