進級テストに受からないと5年生以降通えなくなる
この塾は筑駒や御三家をターゲットにしていると謳っている。つまり、最難関対策専門の塾なので、授業も宿題の内容も難易度が高く、記述の量も多い。入塾後、息子は苦戦を強いられる。残業がなく、定時で帰宅するAさんは毎晩息子の横について、勉強を教えた。しかし、クラスは下位のままだ。
「筑駒や開成を目指す子達が集まる塾です。上のクラスに上がれなくても焦る必要はないと思っていました」
得意の算数でも解けない問題がある。苦手な国語はさらに苦しい。かなりの長文も書かせられるが、息子はそれがなかなかこなせない。
「あの塾のテキストはレベルが高い。大手塾よりずっと難しいんですよ。こういう勉強ができる息子は恵まれていると思いました」
ところがだ。その塾は4年生の末に進級テストがあり、それに合格しないと5年生以降は通えなくなる。少数精鋭の塾だから、今後、授業についていけなそうな生徒は、他の塾に行くように促されるのだ。
今回は中学受験の塾選びで、「大手塾では物足りない」という理由で、我が子を御三家対策専門のエリート塾に入れたAさんについて言及した。中学受験業界でも最強のエリート塾だ。我が子がそこに通うことはAさんの自尊心を満たしてくれた。しかし、学習の内容は難しい。親子で悪戦苦闘して通い続けるが、4年生の末の進級テストをクリアできなければ5年生からはこの塾に通えない。御三家専門塾には他の塾にはない“試練”があったのだ。
次回記事では、Aさん親子のその後を紹介しながら、塾選びの難しさについて、引き続き考察していく。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(ともに青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。