Xで「いいね!」がつくと満たされる
息子が進学したのは、ここ数年人気を集めている新興の共学校。Xでも評判の学校だ。ICT教育やグローバル探究を強みにして、「新時代の進学校」として紹介されるような学校だ。
Aさんは、合格直後こそ「どこの学校?」と友人に探りを入れられても言葉を濁した。しかし、SNSでは少しずつ発信が変わっていった。
「“偏差値より教育の質が大事”“これからは多様性の時代”って投稿しているうちに、自分自身をも説得してました。“いいね!”がつくと、少しだけ救われた気になるんです」
日々、息子の通う中学の様子をXに投稿している。
「“息子の学校の新しい教育は素晴らしい”って書くと、昔の同級生だけじゃなくて見知らぬユーザーも反応してくれる。そういう瞬間に、“自分はいまも誇れる親だ”って思いたくなるんです」
「慶應でなければ意味がない」と言い聞かせ続けたAさんは最後に、小さくこうつぶやいた。
「結局、あれは、息子の受験じゃなくて、俺の自尊心だったんですよ。慶應という看板で守られてきた自分が、その看板を息子に継がせたかった。息子じゃなくて、俺が救われたかっただけです」
息子は今、新興の共学校で、楽しく動画を撮ったり、理科研究に取り組んだりしていると言う。
「俺が“慶應ブランド”に固執していなければ、もっと早く笑顔を取り戻せたのかもしれません。でも、息子が幸せそうだから、それでよしと思うようにしてます」
ブランドへのこだわりから、塾選びで2回、難関校対策の塾を選び、父子は苦しんだ。
「最初の塾も次に通った所も素晴らしい塾でしたが、うちの子には難しすぎました。もっと本人に合う塾にしてあげればよかったと思っています。この後は大学受験がありますが、今後はちゃんと合った塾を息子と2人で選びたいと思います」
Aさんが自身の経験から学んだ“塾選びの教訓”は、多くの中学受験生とその親にとっても参考になるのではなかろうか。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(ともに青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。