橋爪:台湾は民主化して40年近くが経ち「われわれ台湾国民」意識が高く、民心撹乱作戦はやりにくいと思います。おまけに米国がその作戦を指をくわえて見ていて、日本や西側世界も黙っているという条件が必要です。
峯村:中国は今年4月に予定される米中首脳会談に向けて一丸となって対策を進めています。訪中するトランプ米大統領から台湾をめぐる譲歩を引き出せるかどうか。中国が台湾併合に乗り出した際、中国は「静観」していてほしいのが本音です。強い交渉ポジションを得るために、米軍基地がある東京方面に向けて核兵器を搭載可能な爆撃機を飛ばすなど、日米への揺さぶりに出ています。
橋爪:軍事行動を起こすと決めた国が、まず外交で第三国にアプローチするのは歴史の定石です。
その昔のビスマルク外交によるドイツ統一が教訓になります。ビスマルクはオーストリアと戦争してもフランスは静観していてねと、国境地帯(ラインラント)を差し出した。ディールです。でもオーストリアに勝ったあと、すぐにフランスと戦争して国境地帯を取り返すつもりだった。トランプもこうした“ディール”の達人とされますが、台湾統一を目指す習近平に約束させるなら、「中国共産党の解散」みたいな大きなお土産でないと釣り合わないはずです。
峯村:支持率低下に頭を悩ませるトランプが欲しいのは、「最大のライバルである中国とディールして貿易赤字をゼロにした」と有権者にアピールすることです。
中国もそれをわかって、スイング・ステート(大統領選の激戦州)で生産される米国産大豆の輸入を昨年9月までゼロに落としておいて、11月下旬の電話会談後に大量購入を始めたほか、レアアースの輸出規制は1年間停止されました。
4月の首脳会談では、トランプが喜びそうな“お土産”をパッケージにして渡せれば台湾について譲歩を引き出せると踏んでいるのではないでしょうか。
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【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国vsアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』(共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)、『あぶない中国共産党』(峯村氏との共著、小学館新書)、『日本人のための地政学原論』(ビジネス社)など。
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。キヤノングローバル戦略研究所上席研究員兼中国センター長。ジャーナリスト。北海道大学公共政策大学院客員教授。朝日新聞で北京・ワシントン特派員を計9年間務める。中国軍の空母建造計画のスクープで「ボーン・上田記念国際記者賞」(2010年度)受賞。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機 習近平の「新型統一戦争」シナリオ』(PHP新書)、『あぶない中国共産党』(橋爪氏との共著、小学館新書)など。
※週刊ポスト2026年1月16・23日号