慢性疼痛の治療に有効な「マインドフルネス」
医師にとって線維筋痛症の治療の第一歩は、患者さんが心身の苦痛や苦悩を素直に言葉にできるようになるまで、時間をかけて丁寧に話を聴くことです。多くの難治化した慢性疼痛の患者さんは、率直に自分の感情を言葉で表現できない「アレキシサイミア(失感情症)」に陥っているため、話しやすい環境を整え、焦らずに接し、並行して痛みを軽減するための薬物療法を行ないます。
線維筋痛症を含めた慢性疼痛の患者さんには、過去や未来、善悪の判断を抜きにして現在の「ありのまま」に集中する「マインドフルネス」が有効であるという研究結果が数多く出ています。当科でも、段階的な心身医学的治療として以前より導入してきました。
初歩的なステップに「レーズンエクササイズ」という訓練がありますが、これは初めて経験するようにじっくりと一粒のレーズンを観察してから、五感を使いながら食べるというものです。五感を使って感じることで、緊張で気づきにくかった強い痛みは突然起こるのではなく、嫌な出来事やストレスで心身の疲労が蓄積した後、徐々に起こっていると自覚できるようになり、早期の対処が可能になります。
長引く慢性疼痛には、段階に応じた心理学的な治療が有効とされているとされる(イメージ)
口にできない思いを大声で叫ぶ
難治性の線維筋痛症の場合は、入院治療を行なうこともあります。患者さんが日々の状態を書いた「心と体のノート」を元にして、患者さんにご自身の状態や過去の思いなどを語ってもらいます。時には、防音室で親や配偶者などの家族や職場の人などに言いたくても言えなかった思いを担当医師に見守られながら大声で叫び、「心のもやもや」を言語化して発散するという治療も取り入れています。
マインドフルネスやその他の段階的な治療で長年の苦悩が晴れ、睡眠の質が改善されると、脳機能が正常化に向かい、心身が休まり、筋肉の緊張がほぐれて末梢の循環も回復します。それまで効かなかった薬が病変部位に届くようになり、さらに運動療法を導入することで持続可能なセルフケアを定着させることができます。
幼少期から現在までの長年の逆境体験を理解し、その苦労をねぎらったうえで、疼痛学の観点から推奨される適応的な認知行動様式を新たに習得するには時間を要します。難治化した慢性疼痛の治療において最も大切なのは、医師と患者さんの信頼関係を基盤に、「焦らず、粘り強く」治療を継続することなのです。
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「難治化した慢性疼痛の治療で最も大切なのは、患者さんと信頼関係を築き、焦らず、粘り強く治療を継続することです」と語る細井特任准教授
【プロフィール】
細井昌子(ほそい・まさこ)/医師・医学博士・公認心理師。九州大学病院心療内科特任准教授。マインドボディセンター福岡(MBC福岡)代表。1987年九州大学医学部卒業後、米国国立衛生研究所(NIH)留学や九州大学心療内科スタッフとしての臨床・研究活動を経て、2018年に九州大学病院集学的痛みセンター副センター長、2025年に同大学病院心療内科特任准教授に就任。長年、慢性疼痛の心身医学的研究に従事し、痛みと愛着・情動の関係や、ミクログリア異常活性化の検証など多角的なアプローチを推進。現在は厚労省慢性疼痛対策事業の九州代表者を務めるなど、集学的痛みセンターのシステム構築に尽力。医師・心理師両面の知見を活かし、難治例のバイオマーカー検索や心身医学的観点からの予防活動を通じて、痛みに悩む患者の支援に取り組んでいる。
取材・文/岩城レイ子

