*17:22JST カーリット:宇宙・防衛の「重点領域」化で再成長を期す化学メーカー
カーリット<4275>は、1918年に日本で初めて塩を原料とする「カーリット爆薬」の製造・販売を開始したことを祖業とする化学メーカーである。現在は、創業以来培ってきた「電解技術」と「火薬・危険物の取扱技術」をコア技術とし、化学品(2024年度売上高構成比58.1%)、ボトリング(同11.7%)、金属加工(同18.8%)、エンジニアリングサービス(同11.4%)の4事業を多角的に展開している。同社は国内唯一の過塩素酸アンモニウムの工業製造設備を保有しており、ロケットの固体推進薬原料で国内シェア100%を誇るなど、宇宙・防衛分野において極めて強固なポジションを確立している。また、国内登録自動車への搭載率80%となる発炎筒、塩曹系除草剤マーケットシェア40%などコア技術から発展した製品群を有している。近年、事業ポートフォリオ経営を導入し、不採算製品の撤退や成長領域への積極投資を進めることで、企業価値の向上を図っている。
同社の強みは、第一に、国内唯一のプレイヤーとして過塩素酸アンモニウムを安定供給できる独自の製造インフラとノウハウを有していることである。過塩素酸アンモニウムはH3ロケットや各種誘導弾の固体推進薬に不可欠な原料であり、自社開発の電極や自社水力発電所の電力を活用した生産体制により、高い参入障壁とコスト競争力を維持している。23年時点最大生産能力の2~3倍に増強する増産計画も開始しており、27年4月から稼働開始予定となっている。第二に、危険物評価における圧倒的な知見と設備を活かした受託試験事業の展開が挙げられる。電池の安全性やサイクル性能を一貫して評価できる体制は国内トップレベルであり、高い営業利益率を実現する注力領域となっている。第三に、小口径シリコンウェーハ市場におけるオンリーワンのポジションである。多くの競合が撤退した4から6インチのニッチ領域において、単結晶育成から鏡面ウェーハ加工までの一貫製造を継続しており、車載や産業機械向けのオーダーメイド対応ができる事業基盤を構築している。
直近の業績である2026年3月期の第3四半期決算では、売上高26,945百万円(前年同期比1.5%減)、営業利益2,588百万円(同35.0%増)で着地した。化学品セグメントの化薬分野・化成品分野・電子材料分野およびセラミック材料分野に加え、金属加工セグメントおよびエンジニアリングサービスセグメントが堅調に推移した。利益面では期初に想定していた以上に販売価格の適正化が進展し、コスト削減の取り組みと相まって、大幅な増益を達成した。2026年3月期の通期予想については、売上高38,000百万円(同2.9%増)、営業利益3,500百万円(同14.9%増)と据え置いている。
市場環境としては、宇宙・防衛分野において日本の防衛費増額やロケット打ち上げ本数の増加が明確な追い風となっており、中長期的な需要拡大が確実視されている。これに伴い、同社は急激な需要拡大に応えるため、従来より開発を進めていた固体推進薬の量産・製品化を目指すフェーズに移行。宇宙用ならびに防衛用固体推進薬の製品化は赤城工場内に製造設備に加え、検査設備や倉庫施設等を拡充して量産体制構築・市場参入を目指している。
今後の成長見通しについては、新中期経営計画「Challenge2027」において、2027年度に営業利益42億円、35年度には60億円を目指す意欲的な目標を掲げている。金属加工や爆薬・保安炎筒・飲料ボトリングなどの基盤領域は収益源として事業を長期に維持するための資源配分を行い、安定的に企業価値向上に貢献する領域と定めている。一方、最大の成長ドライバーは「重点領域」に設定された宇宙・防衛向けの固体推進薬事業であり、現在、過塩素酸アンモニウムの生産能力を2から3倍に引き上げる大型設備投資が進行中である。2027年度には増産工事が完了し、全面操業による収益拡大が見込まれるほか、過塩素酸アンモニウムの原料供給にとどまらず、固体推進薬そのものの本格開発にも着手しており、事業領域の拡大を図っている。また、宇宙・防衛固体推進薬や過塩素酸アンモニウム以外でも、電極・電解関連品・高付加価値シリコンウェーハなどの育成領域に加え、電池試験・危険性評価試験を注力領域に変更するなど、事業ポートフォリオの最適化(事業の拡大、開発事業の実現)や外部環境変化にあわせ、見直しを進めている。研究開発面でも、次世代エネルギー向けの電極・電解関連品や、AIサーバー向け高性能電解液の開発を加速させており、2030年以降の「収穫と飛躍」に向けた投資促進フェーズとして位置づけている。
株主還元については、株主に対する利益還元を経営の重要課題と位置づけ、総還元性向40%を目標とした方針を掲げている。配当については業績連動型を基本としつつ、自己株式の取得も財務状況を勘案しながら機動的に検討する姿勢を示している。同社は成長投資と株主還元の両立を目指しており、APの増産投資やDX推進などの成長戦略を推進しながらも、株主資本コストを意識した資本収益性の向上に取り組んでいる。
総じて、カーリットは国内唯一のコア技術と設備を武器に、宇宙・防衛という国家レベルの重要領域で確固たる成長基盤を構築している。従来の多角化経営から、高収益な重点領域へ経営資源を集中させる事業ポートフォリオの最適化が着実に進んでおり、今後の大型投資の結実による利益成長と、それに伴う企業価値向上に強く期待していきたい。
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