伝え方のメソッドはおさえていても周囲から煙たがられる上司
たとえば、「相手に何かを依頼するときは、相手の自尊心を満たす言葉と必ずセットで伝える」というメソッド。相手を褒めたり感謝を伝えたりする言葉を添えることで、こちらの要望を気持ちよく受け入れてもらう、という方法です。あなたもどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
実は、私の職場にも、そのメソッドを多用してくる上司が、かつていたことがあります。その上司は打ち合わせで何かを発言するときに、必ず次のような言葉から切り出していました。
「このチームには本当に感謝してるよ」「このチームは最高だ」「これからもみんなと一緒に仕事をしていきたい」
そうやって、まず私を含めチームメンバーの自尊心をとにかくくすぐる言葉をかけてくれるのです。ところが問題はここからです。急に声色を変えると、上司としての本音を語り出します。
「ところで、今回は○○をやってもらわないと困るんだよ」「◯◯をやることが私の使命だと思っている」「無茶なことはわかってるけど、それを考えるのがみんなの仕事だろう?」
そんな上司の無理難題を聞きながら、私を含めてチームメンバーは誰ひとり口を開くことなく、ひたすら無言で話が終わるのを待つしかありませんでした。
もちろん、その場にいるチーム全員が、上司に対して辟易していたのは言うまでもありません。
世の中でよく語られている伝え方のメソッドはしっかりとおさえているはずなのに、その上司はなぜ、周囲から煙たがられていたのか?
その答えは、とてもシンプルです。
人間、そんなにバカじゃないからです。無理難題をやってもらうために、あえて最初に褒めたり感謝を伝えたりしているんだな、ということは、一緒に何回か会議をすれば、すぐに誰でも気づきます。その人の根本的な性質は、伝え方の技術やメソッドをちょっと学んだくらいでは、決して隠すことはできません。いくら言葉の表現を工夫したとしても、それで相手の心が動くとは限らないのです。
※荒木俊哉・著『言語化は「ありきたりの言葉」でうまくいく。』を元に一部抜粋して再構成
【プロフィール】
荒木俊哉(あらき・しゅんや)/1980 年宮崎県生まれ。一橋大学卒業後、2005年に電通に入社。営業局の配属を経てクリエーティブ局にてコピーライターとして活躍。これまで手掛けたプロジェクトの数は100以上、活動は5大陸20か国以上にのぼる。世界三大広告賞のうちCannes LionsとThe One Showのダブル入賞をはじめ、ACC賞、TCC新人賞、日経広告賞、読売広告大賞、毎日広告デザイン賞など、国内外で20以上のアワードを獲得。広告以外にも、国際的ビッグイベントのコンセプトプランニングや、企業のミッション・ビジョン・バリュー策定のサポートを行う。一橋大学で広告のゼミも担当。著書に『瞬時に「言語化できる人」が、うまくいく。』(SBクリエイティブ)、『こうやって頭のなかを言語化する。』(PHP研究所)、『頭の中がどんどん言葉になる 瞬間言語化トレーニング』(SBクリエイティブ)、『聞き出せる人が、うまくいく。』(祥伝社)がある。