M&A市場の活性化が見込まれる中で、注目したい企業は
国税庁が相続や贈与における非上場企業の株価算定ルールを見直す方針であることが分かった。8月中にも見直し案の概要が示される。株の評価額を意図的に下げることによって極端な節税が行われていることへの対処が目的だ。株の評価額を引き下げる節税策が難しくなれば、親族内承継を断念し、第三者への会社売却を選ぶオーナーが増える可能性がある。後継者不足も重なるなか、非上場企業のM&A市場にはどのような変化が起きるのか。今後追い風を受ける可能性がある注目銘柄とは──。個人投資家、経済アナリストの古賀真人氏が解説する。
M&A市場にこれまでにない規模の案件供給
国税庁が非上場企業の株価算定ルールを抜本的に見直す方針を固めた。これは、日本の資本市場および産業構造全体において極めて重大な転換点となる出来事だろう。
これまで、非上場企業のオーナー経営者やその一族は、事業承継や相続に際して、自社株の評価額を意図的に引き下げる、いわゆる「節税スキーム」を多用してきた。具体的には、類似業種比準方式や純資産価額方式という従来の算定ルールにおける制度の穴を突き、相続発生の直前に金融機関から多額の借入を行って不動産を購入したり、含み損のある資産を意図的に抱え込んだりすることで、見かけ上の企業価値を極限まで圧縮する手法がまかり通っていたのである。国税庁はこの「評価額下げ節税」に対し、実質的な市場価値や適正な純資産価値を正確に反映させるための厳格な新ルールを適用し、富裕層による過度な税逃れを封じ込める姿勢を鮮明にした。
この国税庁の方針転換が意味することは、単なる税務上のルール変更や公平性の担保といった表面的な問題にとどまらない。これまで「いずれは親族に会社を譲り、その際に何らかのスキームを使って株価を低く抑えればよい」と安易に考えていた全国の中小企業オーナーたちは、事実上すべての逃げ道を塞がれることになったのだ。仮に無理をして親族内での承継を行おうとすれば、適正に評価された高い株価をもとに莫大な相続税や贈与税が課せられることになり、後継者となる子供たちに多大な財務的負担と経営リスクを強いる結果となる。
こうした現実を前にして、オーナー経営者が取るべき最も合理的かつ現実的な選択肢は、「親族への承継を諦め、第三者へ企業を売却する」、すなわちM&Aの決断に他ならない。つまり、国税庁のこのルール見直しは、日本全国に眠る優良な非上場企業に対するM&Aが活性化する強烈なトリガーとなる可能性がある。日本の深刻な社会問題である「後継者不足」と相まって、非上場企業のM&A市場はこれまでにない規模の案件供給過多、すなわち圧倒的な買い手優位のメガトレンドへと突入していく可能性がある。
今回はそのメガトレンドを踏まえて、注目しておくべき企業をピックアップしておきたい。
自らが買い手となるロールアップ事業が主力
【技術承継機構(319A)】
国税庁のルール見直しによる「買い手優位」の環境下において、最も直接的かつ多大な恩恵を受けるのが、製造業特化型の同業種・関連業種の中小企業を次々と買収・統合する連続買収を実践する、技術承継機構(319A)である。同社は単なるM&Aの仲介会社ではなく、自らが買い手となり、後継者不在で存続の危機にある日本の優れたモノづくり企業や製造業関連事業を次々と買収し、グループ内に収めていくロールアップ事業を主力としている。
特筆すべきは、一般的なファンドとは異なり、買収した企業を転売する出口戦略(エグジット)を一切想定しておらず、グループ内で永続的に保有し利益を創出し続ける点にある。事業モデルの特性上、質の高い買収案件をいかに適正な価格で継続的に取得できるかが成長の要となるが、今回の国税庁の方針転換によって、親族内承継を断念した優良な製造業が大量に売りに出される可能性は高まっており、同社にとって強力な追い風となる。
同社の成長は、直近の決算数値にも如実に表れている。2026年8月14日に発表された2026年12月期 第2四半期決算において、売上高は前年同期比140.0%増の134億8600万円、営業利益は同317.5%増の21億4000万円と、驚異的な前年成長を叩き出した。さらに同社が最重要KPIと位置付ける調整後EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)に関しても、前年同期比191.4%増の29億9200万円と爆発的に拡大している。この躍進は、既存グループ企業の堅調な推移に加え、2025年12月期に譲受した7社の業績がフルイヤーで強力に寄与した結果であり、同社のビジネスモデルの堅牢性と実行力が証明された形だ。
今後の展望についても極めて視界は良好である。2026年6月25日に発表された中期経営計画において、同社は今後3年間でグループの売上規模を現在の2.5倍に拡大し、累計50社以上の追加買収を実行するという強気な目標を掲げている。さらに、2026年8月17日に公開されたIR関連のQ&Aに基づけば、同社は海外の連続買収企業をモデルとし、株式の希薄化を伴う増資や株式交換を極力行わず、有利な条件での銀行借入を活用して譲受を継続していくという、極めて株主価値向上に直結する長期的な財務戦略を堅持している。
また、従来の事業承継案件にとどまらず、2026年3月に実行した大崎電業社の譲受を皮切りに、大企業のカーブアウト案件(一部事業や子会社の切り出し)や上場企業のTOB領域にも本格参入していく方針を明らかにしている。長期的には日本国内だけでなく、同様の高齢化問題が顕在化するアジア市場への展開も視野に入れており、その成長余地は計り知れない。
