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誕生秘話が示す米国でETFが普及した背景 日本も続くか?

 米国におけるETF(上場投資信託)の純資産残高は、2016年3月時点で約2.2兆米ドルと世界全体の約7割を占める、世界最大のマーケットになっている。米国に初めてETFが誕生したのは1993年のこと。米国株の代表的な株式500銘柄で構成されるS&P500に連動するSPDR S&P500 ETF(銘柄コード:SPY)が第1号だ。

 米国初のETFが誕生した時の状況について、SPYの日本でのマーケティングを担うステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ日本法人のETF営業部長・杉原正記氏は、こう解説する。

「1987年に起きた株式市場の大暴落(ブラック・マンデー)を契機に、AMEX(現在のNYSE MKT LLC、旧アメリカン証券取引所)では、新たな金融商品の開発が求められていました。当時AMEXの証券開発担当者で元コモディティ(商品)トレーダーだったネイサン・モスト氏による、『どうしてコモディティのように有価証券の倉庫保管受領書を売買できないのだろうか』という疑問から誕生したのが、ETFの土台となるユニット・インベストメント・トラスト(※)のSPYです」(杉原氏。以下、「」内同)

【※ユニット・インベストメント・トラスト/一定の有価証券のポートフォリオを期間を定めて保有するファンド形式】

 ETFの誕生にあたっては、投資家の証券管理や会計、運用などを行える金融企業がパートナーとして必要だった。それらを網羅できたのが、ステート・ストリート・バンク・アンド・トラスト・カンパニーであり、その資産運用部門であるステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズだったのだ。

「開発当初は、なかなか取引量が伸びなかったそうです。従来の金融商品に比べてコストが手頃で、1回の取引で500銘柄に注文ができるといった画期的な商品性が、従来型の金融商品を扱う証券会社としては驚異でもあったのだと推測されます」

 その後、さまざまな投資教育や商品改良、銘柄の拡充などを経て、いまや米国の株式市場の取引量の上位には、名だたる株式銘柄を押しのけて数多くのETFが名を連ねるようになった。その背景には、個人投資家向けファイナンシャルアドバイザーの登場も挙げられるだろう。

「彼らは、預かり資産や収益額に対する一定料率のフィーを得ています。つまり投資家と同じボートに乗り込み、真剣に成果を上げることが自らの収入も向上させるので、投資にかかるコストを極力抑えながら、かつ相場に合わせた取引が必須となったのです」

 一般的な投資信託よりも運用コストが低く、株式のようにタイムリーに取引ができ、投資対象が明瞭なETFは、米国の投資家たちにとっては欠かせない武器だ。現在、米国における個人投資家のETFの利用率は非常に高く、米国ETFの純資産残高の半分を超えている。

 日本のETF取引においては、取引ベースで手数料などが発生する方式が一般的だ。しかし近年、日本でも個人のニーズに合わせた資産運用の必要性が説かれ、投資家の資産管理から運用アドバイスまでを包括的に行うラップ商品や、いくつかの質問に答えると自動で資産配分を行うロボアドバイザー、個人向けの資産運用コンサルティングなどのサービスも広がりを見せている。

 米国のETF市場が拡大する直前と同じような状況がいまの日本にも見られることから、個人投資家による今後のETFニーズの高まりも期待できるかもしれない。

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