田代尚機のチャイナ・リサーチ

習近平主席の「双炭政策」が生んだ「中国の電力不足」問題という軋み

双炭政策は事実上、国際公約となっている(習近平国家主席。AFP=時事)

双炭政策は事実上、国際公約となっている(習近平国家主席。AFP=時事)

 9月下旬あたりから、世界経済に対する新たなリスクとして、「中国の電力不足」問題が大きくクローズアップされ始めている。主要燃料である石炭価格の上昇により、中国の電力会社の採算が大きく悪化する懸念がある。

 中国では電力価格形成メカニズム改革が進められており、電力価格は需給や電力会社の経営状況が反映される形に変わりつつある。とはいえ、依然として、地方政府の側に実質的な価格決定権がある。

 そもそも地方政府は主要顧客であるメーカーや生活者に配慮し、電力価格を低位で安定させたいと考えている。電力価格が一定なのに原材料価格が上がってしまえば、電力会社の収益は圧迫される。赤字になるぐらいなら供給を増やしたくない。企業側は決して本音を露わにしたりはしないが、需要の拡大に積極的に対応しなくなる。そうした背景もあって、全体として電力供給が増えてこない。

 もう一つ重要なポイントは、中国当局が積極的に双炭政策(後述)を実施しており、電力各社は大義名分のもとに二酸化炭素排出量の削減に取り組んでいるという点である。電力会社からすれば、「安易に発電量を増やそうとすれば石炭消費量が増えてしまいますが、それでは当局の政策に反しますよ?」といった言い訳ができるのだ。

 そもそも石炭価格が上昇している理由は、供給が不足しているからである。供給が不足しているのは、やはり当局が環境重視の政策(双炭政策)を推し進めていることが大きい。実際、中国の現地マスコミの多くも、石炭の供給が不足していることを電力不足の最大の要因として挙げている。

電力会社に求められる事業構造の転換

 習近平国家主席は昨年来、国際会議において「2030年までに二酸化炭素排出量をピークアウトさせ、2060年までに排出量から除去量を差し引いた分をゼロとする(双炭)」と繰り返し発言しており、双炭政策は事実上、国際公約となっている。今年から始まった第十四次五か年(十四五)計画では、“双炭”を達成させるためのカギとなる期間であり、出発点なる重要な時期であるとしている。

 双炭政策は企業が実施すべき重要な政策であるが、足元では既にその成果がはっきりと出始めている。

 エネルギー多消費型産業の代表であるセメントに関して今年に入ってからの生産量を整理してみると、3月は33.1%増であったが、4月は6.3%増に落ち込み、5月以降減少に転じており、8月は▲5.2%減である。鋼材も、電力も、そして石炭も同じ動きとなっている。それぞれ8月の生産量の変化率を順に示しておくと、▲10.1%減、0.2%増、0.8%増となっている。

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