「就職氷河期世代」の特徴とは(イメージ)
就職氷河期世代と呼ばれた人々はどのような特徴を持っているのだろうか。そんな疑問を客観的なデータをもとに分析したのが『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』(近藤絢子・著/中公新書)だ。小説家・澤田瞳子氏がこの1冊を読み説く。
『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』(近藤絢子・著/中公新書)
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かつて1990年代半ばから2000年代前半に社会に出た「就職氷河期世代」は、現在、四十代後半から五十代前半。本来なら社会の中枢を担う年齢に至っているこの世代は、これまで事あるごとに多くのルポルタージュや報道に取り上げられてきた。他の世代に比べて雇用が不安定で年収が低い、経済的に安定しないので子供が持てず少子化傾向に拍車をかけた、若い頃の挫折からひきこもり・ニートが多い……などなど、他の年齢層に比べて、この世代に特殊なイメージがつきまとっていることは、現代日本ではもはや常識の域にある。
本書はそんな就職氷河期世代を前期・後期に分けた上で、統計データによる緻密な分析をもとに、その実像に迫る。
結果導き出されるのは、今までひとくくりに扱われがちだった同世代内の大いなる差違であり、就職氷河期世代のみならず、それ以降、つまり2005年から2009年卒のポスト氷河期世代や2010年から2013年卒のリーマン震災世代まで続く長期にわたる雇用・収入の不安定性、そして実は就職氷河期世代はその上の世代よりも子供を多く生んでおり、就職氷河期世代から少子化が加速したとの言説は幻想に他ならないとの事実など、通説とは大きく異なる分析結果だ。
今日の日本社会において、就職氷河期世代は特殊な世代と見なされ、時には批判的な眼を向けられすらする。だが本書におけるデータ分析と考察は、今日の若年世代の日本の雇用・就労環境の問題点などにも言及し、ひいては日本の未来像の再検討と政策の重要性を提言する。
それにしてもほんの四半世紀前にもかかわらず、過去の事象に対する理解はかくも歪むものかと思い知らされる。その分析・考察結果のみならず、通説的理解の危うさと、客観的データの重要性を再考させる点においても刮目の書である。
※週刊ポスト2025年5月2日号