トランプ大統領による相互関税政策が中国経済にどのような影響を与えているのか(Getty Images)
中国株の第一人者・田代尚機氏によるプレミアム連載「チャイナ・レポート」。トランプ相互関税政策の“不確実性”が中国経済にどのような影響を与えているのか──。
相互関税「90日間停止」でコンテナ輸送運賃が高騰
ビル・ゲイツ氏、ポール・クルーグマン氏といった著名な経営者、経済学者が、トランプ相互関税政策は経済の不確実性を高め、景気を悪化させるなどと指摘しているが、足元ではあたかも逆の見方を示唆するようなグローバルな株価の回復・上昇がみられる。
中国株ではハンセン指数、上海総合指数ともに、トランプ相互関税政策による税率が発表されたことにより4月上旬急落したが5月19日現在、急落前の水準まで回復している。セクター別にみると、大きく下落した半導体、電子部品などが戻ると同時に、貿易絡みのセクター、とりわけ海運、港湾関連の上昇が際立っている。
たとえば、本土コンテナ海運大手の中遠海運控股の19日終値(香港上場)は14.36香港ドルで、4月7日と比べ44.2%上昇しており、昨年6月以来の高値水準にある。また、深センをはじめ国内外の港湾で埠頭事業を営む招商局港口控股の株価は15日の段階で2018年2月以来の高値を付けており、19日の終値は14.08香港ドルで4月7日と比べ19.7%上昇している。
本土市場も同様な相場付きで、19日は江蘇連雲港港口、深セン市塩田港、寧波舟山港、珠海港、南京港、厦門港務発展といった本土主要港湾銘柄が軒並みストップ高まで買われている。
株価上昇の要因は、業績が予想以上に良いこと、見通しが大きく改善したことだ。たとえば、中遠海運控股の2025年1-3月期業績は20%増収、73%増益。トランプ相互関税政策による高関税を懸念、前倒しで荷が動き、需給逼迫から輸送運賃が上昇した。もっとも、4月は高率の追加関税が課せられたことで、太平洋航路線の14%が運航を停止するなど大きな影響がみられた。
しかし、その後状況が一変、5月10、11日に行われた米中経済貿易ハイレベル会談を経て、米中ともに115%相当分の追加関税率が引き下げられ、それが業績見通しの改善に繋がった。引き下げられた内の24%相当については90日間停止されるといった条件が付けられていることから協議の成り行き次第では再び高率関税が課せられる可能性がある。業者はその“不確実性”を嫌って、足元で米国向け荷の予約を急いでおり、コンテナ輸送運賃が高騰している。