*10:33JST 習近平の奇策か 「トランプをノーベル平和賞候補」に推薦してイラン攻撃を阻止させる?(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。
トランプ大統領がイスラエルを支援してイラン攻撃に参加するか否かに関して世界の関心が集まっている。習近平国家主席はプーチン大統領と電話会談をして「外交努力を」と通り一遍のことを言うのがせいぜいのところだろうと思う人が多いだろうが、どうやら、とんでもない「手」を打っているようだ。
先のインド・パキスタン戦争で、「トランプが停戦をさせた」ような話が出ていたが、実はインドが使ったフランス製の戦闘機が、パキスタンが使った中国製の戦闘機に惨敗している。
ところが習近平はこれを逆手に取って、「インド・パキスタン戦争を中止させたのはトランプだ」として、パキスタンに「トランプにノーベル平和賞を!」という売れ込みで、「ノーベル平和賞受賞候補者」に持ち込んで、トランプによるイラン攻撃を阻止させようと企てているようなのだ。
◆パキスタン政府はトランプを「ノーベル平和賞推薦」と発表
6月21日、午前5:30、パキスタン政府@GovtofPakistanは、「ドナルド・J・トランプ大統領を2026年のノーベル平和賞に推薦」という見出しのポストを投稿(※2)した。
そこには概ね、以下のようなことが書いてある。
・パキスタン政府は、最近のインド・パキスタン危機におけるドナルド・J・トランプ大統領の断固たる外交介入と極めて重要なリーダーシップを称え、2026年のノーベル平和賞に正式に推薦することを決定した。
・国際社会は、インドによるパキスタンに対する侵略行為を目の当たりにした。これはパキスタンの主権と領土保全に対する重大な侵害であり、女性、子供、高齢者を含む罪のない人々の悲劇的な犠牲をもたらした。パキスタンは自衛の基本的権利を行使し、ブニャナム・マルスース作戦を開始した。これは、抑止力の再構築と領土保全の確保を慎重に行い、民間人の被害を意図的に回避した、慎重かつ断固とした、的確な軍事対応だ。
・地域の混乱が激化する中、トランプ大統領は優れた戦略的先見性と卓越した政治手腕を発揮し、急速に悪化する情勢を緩和、最終的に停戦を実現した。この介入は、トランプ大統領が真の平和推進者としての役割を担い、対話による紛争解決に尽力してきたことの証しだ。
・2025年のパキスタン・インド危機におけるトランプ大統領のリーダーシップは、実利的な外交と効果的な平和構築という彼の伝統が継承されていることを如実に示している。パキスタンは、ガザで展開されている非人道的な悲劇やイランをめぐる情勢悪化といった中東における継続的な危機において、トランプ大統領の真摯な努力が地域および世界の安定に引き続き貢献することを期待している。 (以上)
最後のフレーズ「イランをめぐる情勢悪化といった中東における継続的な危機において、トランプ大統領の真摯な努力が地域および世界の安定に引き続き貢献することを期待している」は、なんとも見事な締めくくりではないか。
これに対してトランプ自身も、概ね以下のようなポストを発表(※3)している。
・インドとパキスタンの戦争を止めたとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろうし、セルビアとコソボの戦争を止めたとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろうし、エジプトとエチオピアの平和を維持したとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろう。
・また、中東でアブラハム合意を行ったとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろう。
・いや、ロシア/ウクライナ、イスラエル/イランを含め、私が何をしても、結果がどうであれ、ノーベル平和賞は受賞しないだろうが、国民は知っているし、私にとってそれがすべてだ! (以上)
おやおや・・・。
トランプにしては少々斜めからの発言だが、「ほかにもこんなに多くのノーベル平和賞に値することをやっているよ」というのを、強調しているようにも読める。つまり、まんざらではないということになろうか。
流れとしては、
6月18日にトランプがパキスタン陸軍司令官と面会し、イランの件も話しあった。(※4)
6月19日にトランプは「2週間以内に決断する」という趣旨のことを発言した。(※5)
6月18日以降は、それ以前よりも発言内容が穏やかになっている。
という傾向にある。
ちなみにインドは「インド・パキスタン紛争の停戦とトランプはいかなる関係もない」的なことを言っているが、インドが使用していたフランスの戦闘機が、パキスタンが使用していた中国の戦闘機に敗けたとも言っていない。
◆パキスタン軍が使用した中国製軍用機「殲10ce」が、インド軍が使用したフランス製軍用機「ラファール」などを撃墜
少し前のことになるが、今年5月7日、インドがOperation Sindoorを発動してミサイルを使ってパキスタン国内を襲撃(※6)した。さらに大量の戦闘機を使ってパキスタンを攻撃したが、パキスタンが反撃して、中国製の「殲10ce」などを使って、フランス製のラファール(3機)、旧ソ連時代のMiG-29(1機)、ロシアン製のSU-30MKI(1機)を撃墜したと、パキスタン政府側は主張した(有料)(※7)。
パキスタン側は、「インドは70機くらい出動させ、パキスタンは28機を出動した。パキスタンはインドの戦闘機10機以上を撃墜できるが、事態を拡大さえたくないために5機のみを撃墜した」と発表した(※8)。
インドは1機が2.18億ドルという高い価格でフランスの軍用機「ラファール」を調達しているが、パキスタンは1機4000万ドル程度の低価格で中国の軍用機「殲10ce」を購入していると言われている。これまで世界の評価では、ラファールは4.5世代の戦闘機で、殲10c(輸出用は殲10ce)はそれより遥かに性能が悪い戦闘機とされてきた。ところが、初めての戦闘で、殲10ceは全く傷を受けることなくラファールを3機も撃墜したことが、軍事分野で大きな話題になった。中国は実戦で軍用機を使ったことがないので、中国にとっても初めての実戦経験になったわけだ。
もっとも、インドは撃墜されたことを認めず、あくまでもインドが勝利したことと主張し、Operation Sindoorの勝利を10日間祝う活動を今やったほどだ。どうやらフランスの軍事評論家は、ラファールの性能が悪いのではなく、あくまでもインド軍の操縦レベルが低かったのだと主張したようだが、あやふやなまま、戦争は終えた。
この論考はYahoo!ニュースエキスパート(※9)より転載しました。
「習近平の奇策か パキスタンを使い「トランプをノーベル平和賞候補」に推薦してイラン攻撃を阻止させる?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://x.com/GovtofPakistan/status/1936159807326900577
(※3)https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/114717932061341718
(※4)https://www.ndtv.com/world-news/us-president-donald-trump-hosts-pakistan-army-chief-asim-munir-for-lunch-india-iran-israel-attacks-8704673
(※5)https://www.bbc.com/japanese/articles/cglz4kz6nxxo
(※6)https://www.bbc.com/japanese/articles/c20907gv4lyo
(※7)https://www.reuters.com/world/pakistans-chinese-made-jet-brought-down-two-indian-fighter-aircraft-us-officials-2025-05-08/
(※8)https://dunyanews.tv/en/Pakistan/882736-pakistan-could-have-shot-down-more-indian-jets-if-paf-given-free-hand
(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7f9a19179209d4cb1b57ced9efe7bef140c0ad08
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