*14:07JST 澁澤倉庫 Research Memo(7):2027年3月期に営業利益53億円達成を目指す
■中期経営計画
2. 「中期経営計画2026」と成長戦略
澁澤倉庫<9304>は、「Shibusawa 2030 ビジョン」実現に向けたセカンドステージとして2024年5月に「中期経営計画2026」(2025年3月期~2027年3月期)を策定した。基本方針として、主力の物流事業の収益力の強化、国内外の物流ネットワークの拡充、物流の枠を超えた業域の拡大、物流事業とのシナジーを発揮できる不動産ポートフォリオの拡充、ESGへの取り組み強化という5つの成長戦略を推進することで持続的価値の創造を目指す。数値目標は、2027年3月期に営業収益850億円、営業利益53億円、経常利益60億円を掲げた。また、「Shibusawa 2030 ビジョン」で設定したROE10.0%以上を達成するため、そのマイルストーンとして「中期経営計画2026」でROE7.0%以上とすることを目指している。
(1) 収益力の強化
主力の物流事業の収益力の強化では、同社の強みを生かし、物流DXの推進、専門性の追求、倉庫機能の差別化とバリューアップにおいて具体的な施策を実行している。物流DXの推進では、機械化・自動化・情報のデジタル化による作業効率の向上と新たな価値の創造を図っている。専門性の追求では、ロボットとマンパワーによる物流波動に対応できるハイブリッドオペレーションや多品種小ロット物流モデルの開発・全国展開を推進している。倉庫機能の差別化とバリューアップでは、温湿度管理や危険品など特殊貨物に対応する拠点の拡充、流通加工・検品・EC対応といった付加価値の提供など、新たな視点の物流サービスを充実させている。
(2) 物流ネットワークの拡充
物流ネットワークの拡充では、専門性を発揮できる拠点や商品特性・作業形態に適した拠点など国内の物流拠点の拡充を図っている。また、現在導入している陸運配車システムの機能を強化することで配車効率や運行効率を向上、オープンネットワークにより協力会社車両も含めた運行管理や労務管理をレベルアップし、国内輸送ネットワークを強化している。香港や上海など海外拠点では、冷蔵・冷凍倉庫の増設や保冷輸送ネットワークの強化も進め、保冷車による域内物流を拡充する方針である。フィリピンやベトナムでも、提携先の所有する冷蔵倉庫を足掛かりに、コールドチェーン物流の拡充を進める。海外全域では、拠点の整備や現地企業とのパートナーシップ、ローカルマネージメント層の登用などを通じて、地域に密着した物流ネットワーク基盤の構築を目指す。
(3) 業域の拡大
業域の拡大では、物流の枠を超えて、付加価値のある新たなサービスを提供している。例えば、商社機能を強化することで、決済代行やマッチング、日本食材の輸出支援など、商流も兼ね備えたサービスに取り組んでいる。また、オペレーションノウハウを生かした物流機器の開発や、販売・メンテナンス請負などの販売代理、生産計画と連動したプラントロジスティクスや人材派遣事業など製造拠点内サービス、不用品の収集・運搬や再販売などリサイクル事業も展開する計画である。
(4) 不動産ポートフォリオの拡充
不動産事業では、安定した収益・利益を確保することで、ボラティリティの高い物流事業を支える役割を担う。同時に、成長の面で先行する物流事業との差を縮めるよう、成長を目指す。そのため、CRE戦略の推進や環境対応といった施策により、保有物件のバリューアップを進め、収益性の向上を図る。また、物流事業との連携を深めることで、物流施設賃貸業務(不動産)と請負物流業務(物流)を融合した新たな価値創造や、プロパティマネジメント業務※の拡大を目指す。さらに、自社所有物件の再開発に加え、新たな物件を取得し開発していくことも検討しており、中央日本土地建物グループ(株)や清和綜合建物(株)など不動産専業の事業パートナーとの連携も強化する方針である
※ 不動産オーナーに代わって動産に関する資産管理を行う業務。
(5) ESGへの取り組み強化
環境への取り組みでは、GHG(温室効果ガス)排出量40%削減とリサイクル物流の事業化に向け、再生可能エネルギー導入施設の拡大、本牧倉庫をはじめとする環境配慮型施設の建設(CASBEE・ZEB※認証取得)、リサイクル・サーキュラーエコノミー事業の実現、モーダルシフト輸送サービスの強化を進めている。
※ CASBEE・ZEB:CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は建築物の環境性能を評価し格付けするシステム。ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、快適な室内環境を実現しながら消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物。CASBEEとZEBを組み合わせることで、より環境によい高水準の建築物を実現することができる。
社会への取り組みでは、物流事故の削減、イノベーションの活用、人的資本価値の最大化、協力会社との連携強化を通じて、無事故の推進(安全対策強化)、従業員満足度の向上(制度、就業環境の質向上)、人権への配慮の強化(ダイバーシティの推進)、協力会社と連携した環境や安全対策・労働環境の質向上を推進する。
ガバナンスへの取り組みでは、経営基盤の強化、中長期的な企業価値向上、リスクマネジメントの深化、コンプライアンスの徹底によって、グローバル化に対応したガバナンスの構築、適切なリスクテイクによる持続的な企業価値の向上、リスク・リターンの関係を最適化するリスクマネジメントの実践、コンプライアンス体制の強化、情報開示の充実を目指している。
(6) 成長投資と資本政策
企業価値の向上を目指し、成長戦略に伴う投資を計画どおり実行する方針である。「中期経営計画2026」期間中に、営業キャッシュ・フロー250億円のほか、財務健全性を維持しつつ外部負債の活用や資産処分により最大600億円規模のキャッシュインを見込んでいる。これに対して、必須となる更新投資100億円に加え、400億円規模の成長投資と100億円の株主還元を計画している。成長投資は、M&Aや資本提携も含め、国内事業の基盤強化、海外事業の強化・拡大、不動産ポートフォリオの拡充、事業領域の拡大・新規事業開発、DXやIT、ESG経営の強化などに充当する考えである。
こうした成長戦略を支えるため、同社は資本コストや株価を意識した経営も推進している。具体的には、1倍割れしているPBRの改善に向け、ROEとPERの向上に取り組む。ROEの向上では、トップライン成長や利益率改善とともに適切な資本政策を推進する。PERの向上では、リスクプレミアムを引き下げて株主資本コストを低減するとともに、成長戦略を着実に実行することで期待利益成長率を高める。また、IR活動を通じて、こうした取り組みを丁寧に発信するとしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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