スキマバイトで働き手が声を上げにくい構造とは(イメージ)
近年、“新しい働き方”として持て囃されてきたスキマバイト(スポットワーク)をめぐり、大きな問題が持ち上がっている。企業側の都合で仕事がキャンセルされるケースについて、厚労省が注意喚起に動き、業界側も改善を打ち出すが、過去のキャンセル分の休業補償について、最大手のタイミーと厚労省の見解に大きな隔たりがある。
タイミーは本誌「週刊ポスト」の取材に対し、厚労省が示した指針について、「過去に遡って休業手当を支払う必要があるとの考えを示すものではない」と主張。一方の厚労省は本誌の取材に対し、リーフレットは「従前からの留意事項を記したもの」であり、個々の事例において具体的にどの時点で労働契約が成立するかについては「民事上の問題で、最終的には司法で判断される」と回答した。最終判断には踏み込まないものの、過去の休業補償について「支払わなくていい」とする、タイミー側の解釈とは見解を異にしていることがわかった。
スキマバイトをキャンセルした企業が背負うリスク
スキマバイトを利用してきた企業も様々なリスクを背負っているという。この問題を追及する松井春樹弁護士が語る。
「スキマバイトをキャンセルした企業には未払賃金債務が発生し、それを財務諸表に反映する必要があります。また、未払賃金債務を負う企業は労働者からの集団訴訟や、労働基準監督署の立ち入り調査といったリスクがある。さらに問題を放置していると14.6%の遅延損害金が年々積み上がる。コンプライアンスに問題があるとみなされて企業価値が大きく棄損し、取締役・監査役員等の役員が任務懈怠責任を問われる可能性もあります」(松井弁護士)
逆風が強まるなか、厚労省の指針を受けて、スポットワーク協会は新たな方針をまとめた。ワーカーが応募した時点で労働契約が成立すると認めたうえで、企業がキャンセルできる条件が11項目あるとの見解を示した。だがこの「解約可能事由」について、『それって大丈夫?スキマバイトQ&A』(旬報社)を執筆した中村和雄弁護士は批判的だ。
「例えば、『大幅な仕事量の変化による募集人数の変更が必要になったとき』や『業務内容や日時の誤りがあったとき』は労働開始時刻の24時間前までなら解約可能とありますが、24時間という基準にも法的な根拠はありません。明らかに使用者の責任ですから、労基法上は休業手当を支払わなければいけない事案です。ホテル予約のように“24時間以上前だからいいよね”と気楽にキャンセルしてはいけません」