広島市での再開発プロジェクトにかかわる朝日新聞
広島市中心部の紙屋町・八丁堀地区で進行中の大規模な再開発プロジェクト。地上160mの高層ビルが中心に建つ計画で、昨年9月の起工式には松井一実・広島市長や斉藤鉄夫・国交相(当時)も参加した。施工者には都市再生機構(UR)、中国電力子会社らと共に朝日新聞が名を連ね、起工式では同社の角田克・社長も挨拶している。
官民が連携した一大プロジェクトだが、この再開発のなかでの敷地の権利の売買をめぐり、今年7月に住民訴訟が起こされた。訴えを起こしたのは元広島市議の馬庭恭子氏。再開発エリア内の市営駐輪場棟の新設のために広島市は朝日新聞から敷地の権利を購入しているが、そうした取引が市に損害を与えたとして、松井市長に12億4604万円を支払わせるよう求める内容だった。
本誌・週刊ポスト10月6日発売号で問題を詳報しているが、この住民訴訟についての地元紙の記事では、市が敷地の権利を購入した相手は匿名の「地権者」としか報じられていない。本誌が馬庭元市議を取材すると、その地権者とは朝日新聞社であると説明した。
朝日新聞は再開発予定地に「広島朝日ビル」(2010年に解体)を所有しており、再開発事業の施行者であり地権者でもある。2024年5月、再開発で新設する市営駐輪場棟の敷地部分に朝日新聞が保有する「保留床」(再開発事業で新設した施設建物のうち、もとの地権者に割り当てられる「権利床」以外の余剰部分)を、広島市に譲渡する契約が結ばれた。
この契約に際して固定資産税1年分(約1400万円)が譲渡価格に上乗せして支払われたこと、市営駐輪場の着工予定時期が2028年であるにもかかわらず4年も先立って敷地の権利が譲渡されたことで朝日新聞が少なくとも4年分の固定資産税負担を免れた疑いがあること、などの“優遇疑惑”を馬庭元市議は追及している。
今年4月、本件売買契約は違法として是正措置を求める住民監査請求を行なったが、違法性はないとして棄却された。そこで7月に住民訴訟を起こしたという。
この再開発をめぐって2021年には再開発地区にある広島市所有の「旧市営基町駐車場」と、広島商工会議所が所有する「広島商工会議所ビル」を財産交換する契約も結ばれた。その際に市営駐車場の鑑定額が実際よりも安く見積もられている疑いや、市が財産交換で駐車場の地権を安く手放した後に12億円超の大金をかけて駐輪場棟のための地権を改めて朝日から買うといった不可解な経緯も馬庭元市議は問題視している。
朝日新聞広報部は、「事業推進にあたっては、関連法令や関連通達等に従い、施行者および地権者の合意に基づき行っています。ご質問の内容については住民監査請求があり、すでに棄却されていると承知していて、ご指摘は当たりません。また、事業に関する個別の取引内容につきましてはお答えをしていません」と回答。
マネーポストWEBでは、週刊ポスト掲載の詳報記事『《スクープ》朝日新聞、行政が絡んだ土地買い上げ“優遇疑惑”で住民訴訟トラブル 広島中心地の再開発事業で市が固定資産税を肩代わり、売買契約時期は妥当だったか…朝日と広島市の見解は』を先行全文公開している。売買をめぐる経緯の詳細や、情報公開請求で明らかになった固定資産税負担をめぐる朝日新聞と広島市の担当者の交渉記録、広島市の見解、住民監査請求が棄却された背景や専門家の見解、メディアの不動産事業がどうあるべきかなどについて、詳しく報じている。