効果のある片頭痛の治療薬、予防薬が開発されているが、服用には注意が必要(イメージ)
「頭痛くらいで……」と治療を後回しにするビジネスパーソンは、仕事だけでなく日常生活に支障をきたすまで痛みを我慢しがちだ。原因がわからない慢性的な頭痛の中でも、片頭痛の発症メカニズムは解明が進み、治療薬や予防薬の開発も加速しているという──。シリーズ「医心伝身プラス 名医からのアドバイス」、頭痛専門医として頭痛センターを運営し、慢性頭痛の患者と日々向き合う富永病院・竹島多賀夫院長が解説する。【慢性頭痛のメカニズム・後編】
片頭痛の治療で最も重要なのは確定診断
古来より、片頭痛は多くの人々を悩ませてきた病気です。例えば、ユリウス・シーザーや作家のルイス・キャロル、画家のピカソといった著名人も片頭痛だったとされています。日本では、後白河上皇が激しい頭痛に苦しみ、その平癒のために三十三間堂として知られる「頭痛山平癒寺」の寺号を持つ蓮華王院を建立したことからも、その苦痛の深刻さがうかがえます。にもかかわらず、片頭痛の痛みは周囲に理解されにくく、「怠けている」と指摘されることで、仕事や学校が休めない状況にある患者さんも少なくありません。
片頭痛の治療で最も大切なのは、「片頭痛で間違いない」という確定診断をすることです。確定診断によって、患者さん一人ひとりに応じた適切な治療法や治療薬の選択が可能になります。まずは専門医を受診し、ご自身の症状の重症度を診断してもらうことが治療の第一歩となります。近年は頭痛外来や頭痛センターを開設する医療機関も増えていますので、日本頭痛学会のホームページなどを参考に専門医を探してみましょう。
毎日のように薬を服用すると頭痛が慢性化することもある
片頭痛の急性期治療薬としては、一般的に鎮痛剤やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が使われますが、片頭痛特有の薬として知られるのがトリプタン系薬剤です。片頭痛の痛みは、脳内の血管の拡張と、それに伴う神経炎症が関係していると考えられています。かつては血管収縮に関わる神経伝達物質のセロトニンを投与する研究が行なわれましたが、効果はあったものの有害な副作用が問題となりました。その後、セロトニンの受容体に作用する化合物として開発されたのが、トリプタン系薬剤です。
片頭痛特有の薬として知られるトリプタン系薬剤を選択する時のポイント
トリプタンがセロトニン受容体を刺激することで、拡張した血管を正常な状態に戻します。さらに、痛みの原因物質であるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の分泌を抑制して、脳の三叉神経を鎮静化させ、痛みを沈める高い効果を発揮します。
トリプタン系薬剤を含む急性期治療薬は、高い効果を持つ一方で、使用には注意が必要です。頭痛を抑制する効果が高い薬であっても、月間10日以上使用すると、脳が余計に過敏になり「薬物乱用性頭痛」に繋がる可能性があります。急性期に使う鎮痛剤は、1か月に10日以内に留めることが重要であり、これを3か月超えて続けると薬物乱用性頭痛となる恐れがあります。例えば、ドラッグストアなどで市販の頭痛薬を大量に購入し、毎日のように服用すると、かえって頭痛が慢性化し悪化してしまうのです。ダラダラと続く頭痛の場合は、自己判断をしないで必ず専門医を受診することが大切です。

