*12:33JST フタバ Research Memo(3):「技術開発力」と「モノづくり力」を核に技術力を深化し、経営環境の変化に対応
■事業概要
1. 経営環境
フタバ産業<7241>の得意先である自動車業界は現在100年に1度の大変革期とも言われており、各国の産業政策や燃費規制、モビリティの変化などによりCASE※が進展している。特に同社事業に大きく影響するのは、深刻化する地球温暖化対策として不可欠なCO2削減に向けた自動車の電動化である。パリ協定やグラスゴー気候合意により、主要先進国では2050年カーボンニュートラル達成の法定化等を進めている。
※ CASE:「Connected(コネクティッド)」「Autonomous/Automated(自動運転)」「Shared & Services(カーシェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」の頭文字から成る造語で、自動車産業の今後の方向性を示すキーワード。
世界の新車販売台数におけるBEV※の比率は、2024年度は13%、2030年度は33%、2035年度は50%まで上昇すると同社は予測している。2024年度時点では、同社が部品を供給する車種のBEV化比率は10%未満である。しかし、2030年度の売上高(支給品除く)は、成行きで2024年度比約10%(約400億円)の減少を見込んでいる。これは、BEV化の急速な進展に加え、中国での日系車苦戦の影響を受けるためであり、内訳は、排気系/燃料系部品で約6%の減収、ボデー部品/足回り部品で約4%の減収となる見込みである。
※ BEV(Battery Electric Vehicle):ハイブリッド車と異なりエンジンを使用せず電気を唯一の動力源とする自動車。HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池車)とは区別される。
2. 同社の強み
同社は、製品企画から設計・開発、生産準備・生産までの一貫したグローバル生産体制と、新技術の積極的な開発によって培ってきた「技術開発力」と「モノづくり力」が強みである。
(1) 「技術開発力」
「技術開発力」は、製品企画提案力と開発・評価体制により培われたものである。
i) 製品企画提案力
同社は、自動車メーカーの企画・SE※フェーズから構造提案ができる体制を整えている。これにより、部材の強度や組み合せを検証し、軽量化やコスト効率の向上につながる部品構造の提案や、ボデー部品と内装部品を合わせたゾーン開発の提案が可能である。パワートレーン系部品については、規制が厳格化される排気系システムの提案に加え、様々な電動車のニーズ(バッテリーの大型化、安全性など)に応える電動化関連部品の提案も進めている。
※ SE(Simultaneous Engineering):開発初期から生産技術や製造部門が設計に参加する活動。
ii) 開発・評価体制
ボデーシェル解析※や衝突時の溶接部破断予測技術を通じて、解析技術を強化している。排気系部品では、強度だけでなく音や振動の低減、熱の移動の評価・解析が可能である。これにより、小型軽量のマフラーの実現や、排気ガス熱をエンジン暖気・室内暖房への循環に寄与している。
※ ボデーシェル解析:車体骨格の変形状態を確認すること。
(2) 「モノづくり力」
「モノづくり力」は、生産技術力とグローバル生産体制によって支えられている。
i) 生産技術力
成型・接合技術は同社のコア技術である。鉄・ステンレスの曲げ、しぼりなどの技術に加え、成型難易度の高い超高張力鋼板(超ハイテン材)を冷間プレスで加工する技術や、高強度で複雑な形状を可能とするホットスタンプ加工※を他社に先駆けて導入し、競争力を高めている。
※ ホットスタンプ加工:高温に加熱した鋼板をプレス成型した後、金型内に保持し急冷することで鋼板を高強度化する技術。
近年では、CAE技術の向上による応力解析や金型の最適形状算出により、冷間超ハイテン材に対応した金型構造及び接合技術を確立した。同社は、冷間超ハイテン材の加工における課題を克服し、高強度・軽量な自動車部品の生産を実現したことで、自動車メーカーの燃費や安全性が向上した。また、溶接技術では、超ハイテン材の特性に合わせた最適な接合方法(スポット溶接、レーザー溶接、接着剤接合など)を確立した。
さらに、外販設備では、最新デジタルツイン技術※を活用している。設備に必要なロボット動作プログラムや電気制御プログラムをCAD上で再現することで、高精度な設備の造り込みが可能となり、現物試作を行わずに設備設計を実現している。
※ デジタルツイン技術:IoT等のテクノロジーを活用し、現実の設備/製品やこれから作る設備/製品を仮想空間(デジタル上)に再現する技術。
ii) グローバル生産体制
世界に27の生産拠点を持ち、グローバルに情報の共有を行いながら生産性の向上を追求している。各生産拠点は自動車メーカーの近くに立地し、トヨタ生産方式(TPS)を用いて生産方法の現地化と工場間の物流の最適化を図り、安定的な製品の供給を実現している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 松本 章弘)
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