中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

「老親元気で留守がいい」高齢の父親が定年後もバリバリ働いていることのありがたさ

このまま体がしんどくなるまで働き続けてほしい

 こうした状況を一気に打開できるのが、高齢者でも仕事をすることです。仕事というものは、カネを稼ぐ手段でありながら、社会との関係を持て、自身の存在意義をも確認できる行為です。今、父親が仕事を続けていてくれて、本当に良かったと思います。

 私自身、フルタイムで働くのはもういいや、と47歳の時に東京を離れ、佐賀県唐津市へ。今はタイ・バンコクに一時的にいますが、こんな風来坊な生活ができるのも、親が働いているからです。カネはあるだろうし、元気もあるし、ボケもしない。だったら当面は介護の心配もないし、こちらは自由に生活するわ、とばかりに生きられるのです。

 後期高齢者の医療費は、所得に応じて負担割合が変わります。一般所得者は1割ですが、現役並みの所得がある人は3割負担です。父親はかなり収入があるらしいので、当然3割負担。本人は年寄り扱いや「終わった人」扱いされるのがイヤなため、この3割負担というのは「ワシはまだまだやれる」と発奮する材料になっているそうです。そして、3割負担だから、なるべく病院に行きたくない。世の中には1割負担をいいことに、そこまで体調が悪くなくても病院に顔を出す高齢者もいるようですが、私の父親はそのようにはならないのです。

 基本的に年金生活に入った場合は、現役時代に貯めた貯蓄を取り崩しながら残された時間を過ごすことになるわけですが、どうやら貯蓄は毎年増えているらしい。と考えると、もう息子としてはヘンな言い方ですが「親が自立している」と考えることができるわけです。

 同世代でも親に仕送りをしていたり、介護のため頻繁に実家に帰るといった話を聞きます。そう考えると「高齢の親が働いている」ということがどれだけ恵まれているか。「ワシは仕事人間」と言い続けてきた父親ですが、このまま体がしんどくなるまで働き続けてほしいと思います。

「亭主元気で留守がいい」という言葉が昭和の時代には流行りましたが、「老親元気で留守(離れて暮らす)がいい」が少子高齢時代の理想の在り様なのかもしれません。そんなことを考えました。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。

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